突然の別れが訪れたあと、残された家族を思わぬ方向へ追い込むのは、必ずしも莫大な財産や豪邸ではありません。机の引き出しに眠る1通の封筒。それが過去の出来事を呼び起こし、兄弟や親族の関係を根底から揺さぶることがあります。ある兄弟のケースをみていきましょう。
う、うそだろ…〈55歳次男〉が亡父の書斎でみつけた「茶封筒」、そこで知る〈驚愕の過去〉に58歳長男が逆ギレの理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「知らなかった」では済まされない相続の知識

雄一さんは父からの借金を一切認めず、法定相続分通りの遺産分割を主張しました。話し合いは完全に決裂し、兄弟の争いは家庭裁判所での調停へと持ち込まれました。健二さんが夢見た穏やかなセカンドライフは、骨肉の争いの渦へと飲み込まれていったのです。

 

裁判所の司法統計によると、令和4年度に全国の家庭裁判所へ申し立てられた遺産分割事件の総数は15,379件にのぼります。相続財産をめぐる争いは、もはや決して他人事ではありません。

 

今回の健二さんのケースのように、特定の相続人が被相続人(亡くなった方)から、事業資金や住宅資金、学費といった「生計の資本として」多額の金銭を受け取っていた場合、それは法的に「特別受益」と見なされる可能性があります。

 

民法では、相続人間の公平を図るため、この特別受益を相続財産に加算して(これを「持ち戻し」と言います)、各相続人の具体的な取得分を計算するよう定めています(民法903条第1項)。

 

仮に、健二さんの父の遺産が預貯金3,000万円だったとしましょう。雄一さんが受け取った2,000万円が特別受益と認められれば、相続財産は5,000万円。兄弟2人の法定相続分は2分の1ずつなので、それぞれに2,500万円ですが、雄一さんは既に2,000万円を受け取っているため、今回の相続で受け取れるのは雄一さんは500万円、健二さんは2,500万円。その差は歴然です。

 

こうした悲劇を防ぐために、最も有効な対策の1つが、法的に有効な「遺言書」を作成しておくことです。特に、公証人が作成に関与する「公正証書遺言」は、形式の不備で無効になるリスクが極めて低く、偽造や変造の心配もありません。

 

また、生前に金銭のやり取りをする際は、たとえ親子間であっても「贈与契約書」や「金銭消費貸借契約書」を作成しておくことが、後のトラブル回避に繋がります。口約束だけでなく、書面で意思を明確に残すことが、残された家族を守ることに繋がるのです。

 

〈参考資料〉

e-Gov 法令検索「第九百三条 (特別受益者の相続分)」

法テラス『遺言に関するよくある相談』