定年退職を機に手に入れた念願の終の棲家。それは理想のセカンドライフの象徴だったかもしれません。しかし、その決断が思いもよらぬ結末を迎えることも。理想の住まいは、なぜ絶望へと変わってしまったのか。ある男性のケースをみていきましょう。
退職金2,000万円が水の泡…60歳で埼玉郊外に買った「終の棲家」、10年後に待っていた絶望と「高すぎた買い物」の残酷な現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

資産価値が暴落?不動産業者が語った郊外の不都合な真実

「このままではいけない」

 

子どもたちからさらなる住み替えを強く勧められ、正雄さん夫婦は渋々その提案を受け入れることにしました。

 

「この家を売ったお金で、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)にでも入るか」

 

そんな計画を立てるも、現実はあまりに厳しいものでした。複数の不動産会社に査定を依頼しましたが、提示されたのは最高でも800万円。購入価格の2分の1以下という信じられない金額でした。

 

「どこも不動産価格が上がっているとニュースで見たのに……騙されているのでは?」 疑念を口にする正雄さんに、担当者は告げました。

 

「都心や人気のエリアとは違い、郊外の戸建ては資産価値が下がりやすいんです」

「そもそも、相場よりもずいぶん高くつかまされたようです。10年前、あの築年数であの立地で……2,000万円は高過ぎる」

 

売りに出しても、内見の申し込みはほとんどないまま、時間だけが過ぎていきます。国土交通省の『平成30年住生活総合調査』でも、65歳以上の人が住み替えを検討する理由として、「家が広すぎる」「高齢者には使いにくい」といった項目が上位に挙げられています。鈴木さんのケースは、決して特別なことではないのです。

後悔先に立たず…本当に考えるべき「終の棲家」とは

「10年で売るに売れない家を買うくらいなら、ずっと賃貸でよかったですよね……」

 

鈴木さんの後悔は、決して他人事ではありません。定年後の住宅購入は、現在の快適さだけでなく、10年後、20年後の自身の身体的変化や、医療・介護の必要性、そして資産価値の変動リスクまでを冷静に見据える必要があります。「終の棲家」という言葉の響きに惑わされず、

 

・まずは賃貸でその土地での暮らしを試してみる

・売却しやすい駅近のコンパクトなマンションを選択肢に入れる

・子どもたちの家の近くに住む

 

など、ライフステージの変化に柔軟に対応できる住まいこそが、本当の意味での「安住の地」に繋がるのかもしれません。

 

[参考資料]

国土交通省『平成30年住生活総合調査』