首都圏のマンション価格が高騰を続ける今、かつての「環状16号線の内側」という常識は通用しなくなりつつあります。では、これから本当に価値が上がる「損しない街」はどこなのか? マンションリサーチ株式会社による最新調査から見えてきたのは、意外にも「大宮・浦和」という埼玉の都市の躍進でした。変わりゆく首都圏の勢力図を読み解き、未来の資産価値を見抜くための新常識を解説します。
なぜ今「大宮・浦和」が熱いのか? 「16号線神話」が崩れた首都圏マンション、「損しない街」の新常識 写真はイメージです/PIXTA

首都圏マンション「環状16号線」神話の正体と「山手線内側」の価値

首都圏のマンション価格が、とどまることなく上がり続けています。資材価格の上昇、円安を追い風にした海外マネーの流入など、いくつもの理由が複雑に絡み合い、都心では新築も中古も、普通の会社員にはとても手が出せないほどの価格になってしまいました。こんな状況で、どうすれば資産価値が落ちない、むしろ上がるような物件を見つけられるのか。購入を考える人々の悩みは尽きません。

 

かつて不動産業界には、マンションの価値を測るための常識がありました。それが、「買うなら環状16号線の内側」という言葉です。この言葉は、長きにわたり首都圏のマンション選びの金言とされてきました。しかし、社会のあり方や人々の暮らしが様変わりした今、この常識は、もはや過去の遺物になりつつあるのかもしれません。マンションリサーチ株式会社の調査データから、首都圏マンション市場の今、そして勢力図の変化を探っていきましょう。

 

そもそも、なぜ「環状16号線の内側」は、それほどまでに重要視されてきたのでしょうか。その理由は、首都圏のマンション供給の歴史にありました。東京、神奈川、千葉、埼玉の主要都市を結ぶ国道16号線の外側は、戸建て住宅や農地、工業地帯が広がり、分譲マンションの供給戸数そのものが非常に少ないエリアです。つまり、「16号線の内側で買う」という言葉は、そもそもマンション市場がその内側にしか成立していなかった、という現実をズバリと言い当てていただけだったのです。

 

もちろん、16号線の内側ならどこでも安泰、というわけではありません。次にカギを握るのが「鉄道路線」、特に「都心への直通アクセス」。マンションが多く供給されている場所を地図でなぞれば、そのほとんどが都心の主要駅へ乗り換えなしで繋がる沿線であることが一目瞭然です。中央線、東急東横線、小田急線といった人気路線沿いで開発が活発なのは、通勤や通学のしやすさが、そのまま資産価値に跳ね返ってくるからです。都心へのアクセスという絶対的な価値こそが、マンションの需要を支え、資産価値を保つための「生命線」だったのです。この点は、今も昔も変わらない合理的な判断基準と言えるでしょう。

 

では、現在の市場で、資産価値が特に集中しているのはどこなのでしょうか。2023年から2024年にかけてのエリア別平均坪単価の上昇率を調べたところ、坪単価が20%以上も跳ね上がったマンションが集中しているエリア、それこそが山手線の内側です

 

とりわけ、皇居の西から南にかけて広がる渋谷区や港区は、日本で最も不動産価格が高いエリアとして、圧倒的な地位を築いています。このエリアの価値は、単に交通の便がよいというだけでは説明がつきません。世界的なIT企業や外資系企業がオフィスを構えるビジネスの中心地でありながら、最先端の商業施設や文化施設が集まり、洗練された暮らしが手に入る。そのブランド力が、国内外の富裕層や投資家を強く惹きつけています。

 

近年の円安は、海外の投資家から見た日本不動産の割安感を強め、このエリアへの投資熱をさらに加速させている側面も無視できません。「資産価値の中枢」として、山手線内側、特に都心南西部は、もはやグローバルな視点で見ても別格の存在と言えるでしょう。

「荒川越え」はハンデではない?

一方で、今回の調査からは、ひとつ、非常に面白い動きが見られました。それは、埼京線沿線の躍進です。これまで、「荒川を越えて埼玉県に入れば、都心から遠ざかる分、資産価値は下がる」というのが定説でした。ところが坪単価の上昇は、むしろ荒川を越えた埼玉県側でその密度を増していることがわかります。

 

この現象の裏には、浦和や大宮といった巨大ターミナル都市が劇的に姿を変えたことが挙げられます。特に大宮駅は、新幹線をはじめ数多くの路線が集まる東日本のハブ拠点。駅周辺では大規模な再開発が続き、オフィスや商業施設が次々と生まれています。また、浦和駅周辺は、県庁所在地という行政の中心機能に加え、質の高い教育環境を求めるファミリー層が集まる「文教地区」としてのブランドを築き上げました。

 

これらの都市は、もはや単に「東京のベッドタウン」と呼ぶことはできません。行政、商業、ビジネス機能が集まり、エリア内で暮らしも仕事も完結する「独立した都市」としての輝きを放っているのです。都心へのアクセスを確保しつつ、豊かな都市機能と住環境を両立できる。その魅力が、共働き世帯(パワーカップル)などから熱い視線を集め、旺盛な需要がマンション価格を押し上げる大きな力となっているのです。