老後の生活を支える大切な退職金。それを狙う投資詐欺の手口は巧妙化し、後を絶ちません。とりわけ、最も信頼する身内から「絶対に儲かる」と持ちかけられたら、冷静な判断は難しくなるものです。今回は、そんな甘い言葉が引き起こした1つの悲劇をみていきます。
息子よ、何てことをしてくれたんだ!38歳長男の「絶対に儲かる投資話」に便乗した65歳父の悲劇…〈退職金1,000万円〉が消えた残酷末路 写真はイメージです/PIXTA

「絶対に儲かる」の甘い罠…息子もだまされた残酷な現実

投資を始めてから数カ月は、順調に利益が出ていました。毎日翔太さんから送られてくる利益報告のメッセージを見ては、健一さんは「やはり息子を信じてよかった」と喜んでいました。

 

しかし、ある日を境に、利益報告のメッセージが途絶えました。健一さんが翔太さんに連絡を取ると、「システムが一時的にダウンしている」「近々復旧するから大丈夫」など、曖昧な返事が返ってくるばかりでした。

 

不安に駆られた健一さんは、自らシステム会社のウェブサイトを調べました。しかしどんなにアクセスしようにもエラーが出るばかり。「これはおかしい」と健一さんは、翔太さんを問い詰めました。すると、翔太さんは「僕も騙された。先輩も騙されたらしい……」と、涙ながらに告白しました。

 

翔太さんも、その先輩も、セミナーで紹介された「絶対に儲かる投資話」を信じ、友人や知人にまで広めていました。健一さんの1,000万円が返ってくる見通しはたっていません。

 

金融庁に寄せられた投資詐欺に関する相談は、2023年1月から2024年12月までの2年間で合計1万5,054件。そのうち16.8%は、具体的な被害に至っていませんが、残り83.2%の相談は、何らかの被害を受けたものだといいます。また2024年1月から12月までの1年間に寄せられた相談を年代別にみると、全体の12.39%が30代以下、10.85%が40代、14.97%が50代、13.22%が60代、11.26%が70代以上、37.31%が年齢不明。4分の1が60代以上の高齢者で占めています。

 

また国民生活センターが2024年度に全国の消費生活センター等に寄せられた相談の状況をまとめたところ、当事者が65歳以上の相談件数は2024年度30万4,130件で前年から約2万6,500件増加。またクレジットカードや暗号資産などといった「その他金融関連サービス 」に関する相談は4,910件と、前年から397件増となりました。年齢別では70代が最も多くなっています。

 

健一さんは、退職金の多くを失っただけでなく、老後の安心も失ってしまいました。「絶対儲かる投資なんてないのに。元本保証なんてあるわけないのに。今でも、なぜあの時、もう少し慎重になれなかったのかと悔やんでばかりです……」。そう語る健一さんの顔には、深い悲しみと後悔の念が刻まれていました。

 

[参考資料]

政府広報オンライン『投資詐欺にご注意を 気をつけるべき6つのポイント。相談窓口もご紹介』

独立行政法人国民生活センター『2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況』