年金や退職金を巡る制度には、過去に多くの人の生活を脅かしたものが存在しました。本記事では、現在は廃止されたものの、社会に深刻な爪痕を残した3つの旧制度を振り返り、その問題点と未来への教訓を探ります。
「30年間コツコツ積み立てた退職金2,000万円」がゼロに…63歳工場勤めの男性がみた“貼り紙1枚”の悪夢。いまは廃止された“恐ろしい年金制度” (※写真はイメージです/PIXTA)

3.俺だけ損してたみたい…40年来の友情を引き裂いた「官民格差」

CさんとDさんは同じ大学で出会い、意気投合。4年間授業もサークルも一緒で2人は家族よりも長い時間を過ごしました。2人ともストレートで卒業し、Cさんは市役所に、Dさんは民間企業に就職。仕事に追われる日々のなかでも、年に1度は酒を酌み交わし、互いの近況を報告し合う仲でした。

 

そして月日は流れ、2人は65歳に。話題は自然と「年金」の話になり、年金手帳を手にしたCさんとDさんは、思い切ってお互いの年金額をみせあうことにしました。

 

「せ~のっ!」

 

酒の勢いもあり、年甲斐もなくはしゃぐ2人。しかし次の瞬間、言葉を失いました。

 

公務員だったCさんの年金受給額は、Dさんの1.5倍以上。同じ保険料を払ってきたはずなのに、共済年金の「職域加算」によって、Cさんの年金は大幅に上乗せされていたのです。

 

「……なんか、俺だけ損してたみたいだな」

 

Dさんの言葉に、Cさんは返す言葉もありません。40年以上続いた友情は、「旧共済年金制度」の残酷さによって、ついぞ引き裂かれたのでした。

 

旧共済年金制度(~2015年)

「旧共済年金制度」は、公務員や私立学校の教職員が加入していた年金制度です。会社員が加入する厚生年金とは別の制度として運営されていました。保険料率は厚生年金と大きく変わらないにもかかわらず、年金の給付水準が厚生年金よりも手厚く、「官民格差」の象徴として長年批判されていました。

 

特に問題視されたのが、基礎年金・厚生年金部分(2階建て)に加えて、共済年金独自の3階部分として「職域加算」という上乗せ給付があった点です。これにより、同じ保険料を払っても、公務員のほうが将来もらえる年金額が多くなる構造になっていました。

 

この官民の不公平を是正するため、2015年10月に共済年金は厚生年金に一元化(統合)される形で廃止されました。これにより、保険料率や給付の計算方法は厚生年金に統一され、問題となっていた「職域加算」も廃止(新しい別の仕組みに変更)されました。

過去の悲劇を繰り返さないために

年金担保融資、適格退職年金、旧共済年金制度……。本記事で紹介した3つの制度は、いずれも「老後の安心」という国民の信頼を根底から裏切る、恐ろしい構造を内包していました。幸いにも、これらの制度は世論の声や専門家の指摘を受け、現在は廃止・統合されています。しかし、それで終わりにしてはなりません。

 

年金や社会保障の制度は、時代の変化に合わせて、これからも度々改正されていきます。その一つひとつの変化に対し、「自分には関係ない」「どうせ決まったことだ」と無関心でいては、こうした“悪制度”が形を変えて、再び私たちの前に現れないとも限りません。

 

2025年も年金の制度改正がありました。制度改正のニュースに、誰もが「自分事」として鋭い目を見張り続けることこそが、私たちの未来の生活を守る、なによりの力となるのです。