2025年の日経平均株価は4万円台に定着、昨年はNISA制度を抜本的に拡充した。この追い風を受け、日本人の投資への関心は急速に高まっている。日本証券業協会の調査によれば、NISA口座数は右肩上がりに増加しており、特に「つみたてNISA」においては、口座開設者の実に9割が投資未経験者であった。この数字は、これまで投資と無縁であった層が、新たに参加者として市場に流入している現実を物語っている。一見すると、これは日本人の金融リテラシーが向上している証左のようにも思えるが、その実態は大きく異なる。投資熱の高まりとは裏腹に、金融教育の浸透は遅々として進んでいないのが現状で……。
月収39万円の56歳会社員、覚悟の決断「住宅ローンは80歳完済です」…老後資金が消える悲劇の始まり (※写真はイメージです/PIXTA)

投資詐欺の蔓延

日本人の金融リテラシーの低さを示す一つの証左が、投資詐欺被害の深刻さだ。著名人の名を騙るSNS広告や、マッチングアプリ経由のロマンス詐欺など、その手口は後を絶たない。詐欺の内容自体は、金融の基礎知識があれば見抜けるはずの杜撰なものも多い。「インサイダー情報は犯罪である」「永遠に上がり続ける相場はない」といった基本原則を知っていれば、感情を煽られても騙されるはずがないのだ。

 

あまりに短いNISA保有期間

より根深い問題は、多くの家庭で「積み立て投資の早期解約」が頻発していることである。つみたてNISAを解約した人の平均保有期間は、わずか2.1年という調査結果もある。長期投資による安定したリターンを目的とする制度の理念とは、かけ離れた実態だ。その背景には、「家計が苦しく継続できない」「少し利益が出たからやめてしまった」という声が数多く存在する。

 

ライフプランに基づいた目的意識がないまま、「友人が儲かっているから」という短絡的な動機で投資を始める。家計のキャッシュフローを計算することなく、思いつきの金額で積み立てを開始する。こうした無計画さが、多くの人を早期の挫折へと導いているのだ。ここでは、その典型ともいえる一人の女性の事例を紹介したい。

「無難が一番」失敗したくない54歳独身女性

新見祥子さん(仮名)は、会社員として働く54歳の未婚女性。彼女の人生の指針は、「失敗して後悔するのが怖い」という、過度なまでのリスク回避であった。

 

その信条は、彼女の日常生活の隅々にまで浸透している。スマートフォンは持っているものの、使うのは通話とキャリアメールのみ。LINEやSNSは「よくわからないから」と頑なに拒否し、ネット通販は「カード情報を盗まれそう」という理由で一度も利用したことがない。行きつけの喫茶店で頼むランチは、決まってナポリタン。メニューの隅にある「今週のパスタ」は視界に入れないようにしている。髪型も学生時代から大きく変えたことはなく、30年以上、同じ車種のカローラに乗り続けている。

 

彼女にとって、「無難」こそが心の平穏を保つ術なのだ。