(※写真はイメージです/PIXTA)
妻が財布を握る夫婦
「おつかれさま。これで、ようやく肩の荷が下りたな」
大手メーカーに勤める充さん(仮名/57歳)が、妻・留美さん(仮名/59歳)にそう声をかけたのは、一人息子が社会人として家を巣立っていった日の夜でした。寂しさで涙を滲ませる留美さんの肩にそっと手を置きます。
充さんの年収は900万円。長年の最大の支出であった教育費がなくなり、これからは夫婦二人の老後の準備をしていかなくてはなりません。
結婚して30年。家計はすべて専業主婦である留美さんに任せきりでした。給料受取兼生活費等の引き落とし口座の管理を託し、自分は毎月5万円のお小遣いを受け取る。充さんが育ってきた環境もそうであったように、それが長年の習慣であり、お金の心配などしたこともありません。「お金の管理は女性のほうが得意だから」なんの疑いもなく、そう信じていました。
夫が目を向けてこなかった財布の中身
本格的な老後計画を立てるため、充さんが初めて「家計の現状をみたい」と留美さんに切り出したところ、妻は通帳や証券類をテーブルに広げました。
通帳の残高は、充さんが想像していた額を大きく下回る200万円ほど。退職金を除けば、老後資金と呼べるものはこれだけでした。よかれと思って加入していた貯蓄型保険は利回りの低いもので、NISAやiDeCoといった制度も「よくわからないから」と手つかずの状態。
めまいを起こす充さんに、留美さんは声を荒げます。
「私がずっと節約して、やりくりしてきたのよ! あなたはお金のことなんて、なに一つ知ろうとしなかったじゃない!」
充さんは、妻を責めることができませんでした。お金に無関心すぎた自分にも責任があると、痛感したのです。夫婦のあいだに、重く、気まずい沈黙が流れました。