(※写真はイメージです/PIXTA)
失ったのは、年収1,200万円の肩書だけではなかった
「給与は別によかった。それまで十分稼ぐことができたから。ただ後輩のサポート役にまわったのはいいけれど……後輩もやりにくいですよね、かつての上司が後ろに控えているなんて。私が同じような立場なら、嫌ですもん」
直接言われたことはないものの、どこかぎこちない雰囲気。「明らかに自分は老害だ」と感じたといいます。それでも働き続けることはできたでしょう。しかし、長年培ってきたプライドがそれを許さず、「自分の力なら、もっと良い条件の場所が見つかるはずだ」と、再雇用から1年ほどで退職することを決めました。
しかし、再就職市場の壁は厚く、鈴木さんの輝かしい経歴に興味を示す企業はあっても、納得できるポジションへの採用は決まらず……あっという間に1年のときが過ぎてしまったといいます。
再就職の険しい道のりは、家庭にも暗い影を落とします。これまで仕事一筋で家庭を顧みなかった夫が毎日家にいる――妻にとって、大きなストレスだったでしょう。さらに鈴木さんは、新しい就職先が決まらないイライラを家族にぶつけることもありました。
「妻は耐えきれず出て行ってしまいました。今、離婚協議中です」
妻が去り、独立していた子どもたちも寄り付かなくなった家は、あまりに広く、静か。孤独な生活は、気力も、そして健康的な生活への意欲も奪っていきました。かつてはグルメ通で知られた鈴木さんですが、今ではただ空腹を満たすためだけに、以前は決して口にしなかったカップ麺をすすることも珍しくありません。
「一人だと、ちゃんとしたものを作るのも面倒でね。お金がないわけではないのですが――カップ麺で十分。本当に、これで十分……」
定年を境に、給与は大幅減。ポジションもなくなり、会社ではどこか居場所がないように感じられました。そして今、家族までも失おうとしています。
どこで間違えてしまったのか――鈴木さんの深すぎるため息が、静かな夜をさらに重くしていきます。
[参考資料]
厚生労働省『令和6年 賃金構造基本統計調査』