長年連れ添った夫婦を待ち受ける、老後の年金生活。夫の年金に頼る暮らしのなか、ふとした一言が長年の信頼関係を揺るがすこともあり、妻に人生の大きな決断を迫ることがあります。それは決して特別な夫婦の話ではなく、働き方が多様化した現代において、誰にでも起こりうることかもしれません。
俺の年金23万円があるだろ!68歳夫の怒号に、〈年金月9万円〉66歳妻が静かに置いた「離婚届」 (※写真はイメージです/PIXTA)

お前は家にいればいい…その言葉を信じて生きた40年

「夫と結婚して45年。まさかこの歳で『離婚しましょ』と言うなんてね」と微笑む、高橋良子さん(66歳・仮名)。良子さんの夫、健一さん(68歳・仮名)は、大手企業を勤め上げたいわゆる「昭和の男」。「男は外で働き、女は家庭を守る」という価値観を体現したような人でした。結婚当初、健一さんは良子さんにこう告げたといいます。

 

「お前は家のことと、これから生まれてくる子どものことだけを考えていればいい。生活の心配は一切させないから」

 

その言葉を、良子さんは純粋に信じていました。2人の子どもに恵まれ、子育てに追われる日々。家計はすべて健一さんが管理し、良子さんは毎月決まった額の生活費を受け取るだけ。それが高橋家のやり方でした。

 

子どもたちが独立し、自分の時間ができたとき、良子さんは仕事を始めたいと健一さんに相談しました。しかし、返ってきたのは「俺の稼ぎが信用できないのか。みっともないからやめておけ」という、取り付く島もない言葉。そんな生活のなか、自身の年金通知書が届き、良子さんは現実に愕然とします。そこに記されていた支給予定額は、月にして約9万円。国民年金に、独身時代に勤めていた会社の厚生年金がわずかに上乗せされているだけでした。

 

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給者平均年金月額は14万7,360円。65歳以上の男性だと16万9,484円、女性は11万1,479円と、男女で6万円近い差が生じています。キャリアの中断があることが多い女性の平均年金額は、どうしても男性よりも劣ってしまうのが現状です。

 

一方、健一さんは年金の繰下げにより25%ほど増額。月23万円ほどを手にしています。その差は歴然。それでも良子さんは、「夫婦で暮らしていくのだから」と、その差を深く考えることはなかったといいます。