高い地位と収入、そして輝かしいキャリア。順風満帆な人生を歩んできたとしても、定年という大きな節目が、その後の人生を大きく変えてしまうことがあります。長年培ってきたプライドが、時として思わぬ落とし穴へとつながることも。
カップ麺で十分だよ…「元・年収1,200万円エリート」の63歳男性、失職から1年ですべてを失った理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

一人にはちょうどいい…侘しい食卓に響く乾いた笑い声

夕食は、決まって近所のコンビニで買ったカップ麺。テレビから流れる賑やかなバラティ番組の音だけが響く1DKの部屋で、鈴木健一さん(63歳・仮名)はプラスチックの箸を無心に動かしていました。

 

「いやあ、手軽でいいですよ。最近のカップ麺は本当によくできている。味も色々あるから飽きないしね。一人ならこれで十分だよ」

 

現役時代の鈴木さんは、絵に描いたようなエリートでした。有名大学を卒業後、誰もが知る大企業に入社。持ち前の語学力と交渉力を武器に、数々の大型案件を成功に導き、40代で海外支社の責任者に抜擢されました。部下を従え、世界を相手にダイナミックな仕事をする毎日は、刺激と興奮に満ちていました。

 

ピーク時の年収は1,200万円を超え、平日の夜は銀座や赤坂で、休日は得意のゴルフで接待。海外駐在が長かったこともあり、自宅にあるワインセラーには世界各国のワインが常備され、部下や取引先を招くことも。そこに彩りを添えたのが妻の手料理だったといいます。

 

「妻は料理が得意で、『いっそのこと、店でも出そうか』と本気で考えたくらい」

 

60歳で定年を迎えましたが、「まだまだ第一線でやれる自信があった。会社も自分を必要としていると信じて疑いませんでした」と鈴木さん。しかし華やかな日常から一転、今はひとり寂しくカップ麺をすすっている――いったい何があったのでしょうか。

 

「再雇用で定年後も働くことはできる、ただ役割としては後輩たちのサポートにまわってくれと。いつまでも現役というわけにはいかない。後進に道を譲らないといけない――当たり前ですね」

 

定年を境に給与は年収500万円ほどに減少しました。厚生労働省『令和6年 賃金構造基本統計調査』によると、大卒サラリーマン(正社員)の平均給与は月収で41.8万円、年収で683万円。20代前半で月収25.2万円、年収367万円だった給与は年齢が上がるとともに上昇。そのピークは60歳定年前の50代後半で、月収55.0万円、年収で903万円。60代前半では月収で41.3万円、年収で638万円と、60歳を境に25~30%程度減少します。

 

ただしこれは60歳以降も正社員だった場合。再雇用で契約社員や嘱託社員になった場合はさらに減少するでしょうし、定年と同時に役職も外れたら、減少幅は非常に大きくなります。