定年退職は、長年の会社員生活からの解放を意味します。しかし、誰もがその自由を心から謳歌できるわけではありません。会社での役職や役割を失ったとき、想像以上の喪失感に襲われる人も少なくないのです。かつての充実した日々を忘れられず、新たな自分の居場所を求めて彷徨う――そんなケースも珍しくありません。
会社に戻りたい…定年後に嘆く62歳元課長、〈月収28万円〉の嘱託社員時代を忘れられず「ハローワーク通い」 (※写真はイメージです/PIXTA)

社会との繋がりを求めて、ハローワークへ

完全リタイアから3ヵ月。田中さんは、ハローワークに足を運ぶようになりました。目的は仕事探し。

 

「経済的に困窮しているわけではありません。年金ももらえますし、退職金も、貯蓄もそれなりにあります。妻も働いていますから、何も困ることはありません。でも、このまま家に引きこもっていたら、本当におかしくなってしまいそうで……」

 

田中さんが求めているのは、お金以上に「社会との繋がり」でした。誰かに必要とされたい。自分の居場所がほしい。その一心で求人票を眺めます。しかし、そこに並ぶのは「清掃スタッフ」「警備員」といった、これまで経験したことのない仕事ばかり。

 

「本当は事務職が希望なのですが、全然求人がないですね。あってもスゴイ倍率らしいです。よくあるのは、いまだかつて経験したことのない仕事ばかりで、躊躇する気持ちが強いです。あと、それなりの企業で、それなりに働いてきた、というプライドも……ゼロと言えばウソになります」

 

ただ贅沢は言っていられない現実があります。社会との繋がりを感じられないまま過ごしていると、どうにかなりそう……限界でした。

 

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』で、60歳以上に「収入を伴う仕事をしている理由」を尋ねたところ、「収入のため」が最も多く55.1%。「働くのは体によいから/老化を防ぐから」20.1%、「自分の知識・能力を活かせるから」12.4%、「仕事が面白いから」4.8%、「仕事を通じて友人や仲間を得ることができるから」3.0%と続きます。経済的な理由で働く人が多い一方で、仕事にお金以外の何かを見つけて働いている人も多いことが伺えます。

 

こうして田中さんが見つけた仕事が、「介護施設のスタッフ」。資格を持たないのであくまでもサポート的な立場ではあるものの、「この先、何かに役に立つかもしれない」と、前のめり気味の田中さん。その笑顔は充実感に満ちています。

 

[参考資料]

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』