「一定期間、特定の地域や職場で働けば返済が免除される」こうした奨学金は、地域社会に貢献しながら学べる、非常に魅力的な制度だ。しかし、それは卒業後のキャリアについて、早い段階で大きな決断を求められるという意味でもある。5年後、10年後に新しい夢ができたとき、免除の権利を手放してでもその道に進むか。それは、多くの若者が直面する、悩ましい選択肢の一つだろう。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金とキャリアプランの長期的な関係について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
「返さなくていい奨学金」のはずが…。“地元に5年縛られる契約”を蹴り、東京で「月10万円の返済地獄」のなか生きる23歳看護師の告白 (※写真はイメージです/PIXTA)

月10万円の返済

東京での生活を始めたAさんは、返済を続けるため、給与水準の高い不動産営業の仕事に就いた。一人暮らしの生活費に加え、資格取得のための学校にも通いはじめたことから、毎月10万円におよぶ返済は大きな負担となった。当然、貯金は思うようにできない。

 

Aさんは空いた時間に飲食店でアルバイトをすることで、なんとか生計を維持していた。このときの手取りはすべての仕事の収入を合わせて月23万円程度。「気づけば、会社の飲み会も参加せず、友人と会うことも控えて、娯楽はゼロ。起きている時間はほぼ働いているといった状況でした」とAさんは語る。奨学金と教育ローンの返済があるから働く、しかし返済のために働き方を選べない──そんなジレンマを抱えるようになった。

 

奨学金の返済を減額

このままの生活は続けられないと思ったAさんは、奨学金の貸与元に相談をして、奨学金の返済額を月1万円に減額してもらえることになったという。これにより、毎月の返済額は合計7万円程度に抑えられたものの、金利がかかる教育ローンの支払いを減らせず、生活は依然として厳しかった。

 

現在のAさんは、不動産の営業職を続けながら、副業として週末はデイサービスの看護師として勤務している。月の収入は手取りで約30万円に増え、少しずつ安定した収入を得られるようになったという。また、複数の職種に携わることで、働き方の選択肢や人とのつながりも広がり、自分の成長を実感している。

 

「返済が大変ではないといったら嘘になります。でも、このお金があったから看護師資格を取ることができ、こうしてどこでも働ける力になっています。両親が看護の道を示して後押ししてくれたことには本当に感謝しています。また、返済があることで浪費することもなく堅実に生活できています。そしていま、東京で多様な価値観に触れるなかで、自分の視野を広げ、仕事もやりがいを持って続けられています」

 

返済という負担を抱えながらも、Aさんは前向きに歩み続けている。