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家業は温泉宿…両親が応援してくれた夢
幼いころから、宿に訪れたお客さんが笑顔になる姿を目の当たりにしてきた。両親の働く背中は、なによりも輝いてみえた。
「もっと地元の魅力を知ってもらいたい。そして将来は自分が宿を継ぎ、もっと大きくするんだ」――それがAさんの原点だった。
大学進学のため上京したタイミングでの悲劇
Aさんは北陸地方の出身。両親が営むのは、客室7室ほどの小さな温泉宿と観光ガイド業。家族経営の宿で、地酒蔵の案内や温泉街散策を組み合わせた“地元密着型のおもてなし”で人気を集め、外国人観光客も多く訪れていた。
「地方創生や観光業を体系的に学びたい」そう考えたAさんは、東京の私立大学進学を決意。当時40代、月収100万円~150万円程度の収入があった両親は「学費は私たちが出すから」と背中を押してくれたという。
しかし2020年春、大学入学と同時に新型コロナウイルスが猛威を振るい、宿は深刻な打撃を受ける。予約は相次いでキャンセル、宿泊ゼロの日も続き、固定費が重くのしかかった。
入学までに必要だった費用は入学金や授業料、パソコン、教材、住まい探しや引っ越し、新生活用品など合わせて約180万円。両親がなんとか工面してくれた。しかしその後「ごめん……。来年の授業料が払えるかわからない」と母から涙ながらの連絡を受け、なんと返事したらよいかわからなかった。
大学入学早々に、親にこれ以上負担をかけられないと、当初は想定していなかった日本学生支援機構の貸与型奨学金(第二種)を月12万円借りる決断をしたという。同時に週3日、倉庫での軽作業アルバイトをし、月約8万円を稼ぎ、生活費をやりくりした。