可愛い我が子を思う親心から始めた経済的な援助。その長年の善意が、気づかぬうちに自分たちの老後を脅かす大きなリスクに変わってしまうことがあります。これは特別な話ではなく、どの家族にも起こりうる、まさかの事態。なぜ、このような事態は起きてしまうのでしょうか。
もう耐えられません…夫婦で〈年金月30万円〉70代夫婦、息子に〈毎月5万円の仕送り〉に30年…まさか「老後資金ゼロ」の現実に呆然 (※写真はイメージです/PIXTA)

「まさか」では済まされない…老後資金を枯渇させる想定外

家族への仕送りを続ける高齢夫婦は少なくありません。総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』で高齢夫婦(無職)の月々の支出をチェックすると、「仕送り金」は平均で月1,040円です。ここでいう仕送り金は、世帯外の人への生活費や家賃、授業料などの継続的な送金を指します。

 

この数字は、仕送りの有無にかかわらず全世帯を平均したものであるため、一見少なく見えます。ちなみに厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、「子に仕送りをしている」70代世帯の割合は1.6%で、その平均額は8.3万円。毎月、実際に仕送りをしている高齢夫婦の負担は、決して小さくないことがうかがえます。

 

一方で、高齢夫婦の家計はというと、消費支出が平均25万6,521円に対し、可処分所得は平均22万2,462円。黒字率はマイナス15.3%です。毎月の収入だけでは賄いきれず、貯蓄を取り崩して生活するというのが、日本の高齢者の平均像なのです。田中さん夫婦のように固定的な仕送りがあれば、その赤字幅はさらに拡大し、医療費、介護費、家の修繕費など、思わぬ大きな出費によって老後資金が枯渇する――。そんな事態に陥ることも不思議ではありません。

 

健一さんは退院したものの、以前のように自由に歩くことは難しい状態です。良子さんが身の回りの世話をする「老老介護」の生活が始まりました。

 

「もう限界……もう、耐えられません」

 

30年間続けてきた息子への仕送りを辞めるときがきたようです。

 

[参考資料]
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』