長年の会社員生活を終え、手にした退職金。これでようやく夫婦水入らずの時間を、と考える人は多いでしょう。しかし、長年連れ添った夫婦だからこそ、見過ごされてきた価値観のズレが存在するものです。特に住環境に対する感じ方の違いは、定年という節目を機に大きな問題として表面化することがあります。
これが定年の現実か…〈退職金2,500万円〉60歳元会社員、妻から突きつけられた「想定外の要求」に撃沈 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の多くの家族が抱える「室温ストレス」

東京都が全国の戸建てまたは分譲集合住宅に住む20代から80代の男女1,400名を対象に行った『住まいの室温に関する実態調査』によれば、持ち家に住む人の約半数(50.6%)が「室内が暑すぎたり寒すぎたりして耐えられない」と感じた経験があると回答しています。

 

このストレスは精神的なものにとどまらず、具体的な健康被害にもつながっています。「睡眠の質の低下」(20.0%)、「体がだるく感じる」(16.3%)、「寝つきが悪くなった」(15.4%)といった回答が多く、特に60代以上の半数以上(52.9%)が睡眠の質の低下を訴えるなど、中高年層への影響はより深刻です。

 

さらに20代から40代の既婚者に、家族やパートナーとの価値観の違いによるストレス源を尋ねたところ、「片付けや掃除の頻度・基準」のほか、「室内の温度に対する感じ方」が上位に入っています。室内の温度に対する感じ方が異なることが原因で、別居の検討や喧嘩にまで発展するほどストレスを感じる人が約1割(12.9%)いることもわかりました。住まいの温度環境が、夫婦関係にも影響を及ぼしているのです。

 

この根深い室温ストレスを解消する手立てとして、今回の調査では「断熱リフォームの効果」にも光が当てられています。実際に断熱リフォームを実施した人にその効果を尋ねたところ、約8割(75.5%)が「室温が一定に保たれるため、快適に過ごせるようになった」と回答しています。

 

住宅の断熱性能を高めることで、外気の影響を受けにくくなり、家全体の温度が安定します。エアコンが効いた部屋とそうでない部屋の温度差が小さくなれば、夫婦間での設定温度をめぐる争いや、寝室を分けるといった極端な対策を取る必要もなくなるかもしれません。さらに断熱リフォーム後、光熱費が月額平均で3,479.6円も減少したという結果も出ています。経済的なメリットも見逃せないのです。

 

「定年を迎えたら、夫婦でちょっと豪華な旅行へ、というのが定番かと思ったんですが……こんなもんなんですね」

 

800万円という金額は確かに大きいですが、これから先の30年、夫婦が健康で快適に過ごすための投資だと考えれば、決して高くはないのかもしれません。佐藤さん夫婦は、旅行の計画をいったん白紙にし、リフォームを最優先することに決めたといいます。

 

[参考資料]
東京都『〈住まいの室温に関する実態調査〉持ち家に住む人の約半数が暑さ/寒さに関する室温ストレスを経験』