親の介護が現実のものとなったとき、多くの家族が直面するのが老人ホーム探しです。数ある施設のなかから一つを選ぶ際、やはり費用は最も気になる点の一つでしょう。しかし、月々の支払いの安さだけに目を奪われてしまうと、入居後に後悔する事態を招きかねません。その価格がなぜ実現できているのか、考えたことはありますか?
悔やんでいます…〈年金月14万円〉82歳母のため、55歳娘が選んだ「格安老人ホーム」の悲惨な実態に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

「安さ」の裏側…介護施設の厳しい現実

公益財団法人介護労働安定センター『令和5年度介護労働実態調査』によると、介護職の離職率は13.1%。全産業の平均離職率15.4%であり、特別高いというわけではありません。ただ人手不足感は高く、有効求人倍率は令和7年3月、全職業平均1.16倍に対し、介護職は3.97倍。圧倒的に足りていない状況です。

 

人手不足のひとつの要因とされているのが、介護業界の賃金。平均月給は常勤で約33万~34万円程度で、年収にすると約400万円程度と全産業の平均と比較しても低水準にとどまっています。

 

そもそも有料老人ホームの費用は、主に家賃相当額、管理費、食費、そして介護保険の1~3割の自己負担分で構成されます。施設のサービスを手厚くするための「上乗せ介護費」などが加わることもあります。費用を抑えるためには、これらのどこかを削らなければなりません。都心から離れた立地で地代を抑える方法もありますが、最も手をつけやすいのが人件費なのです。

 

利用料が周辺相場より極端に安い施設は、人件費を抑えることで価格を維持している可能性があり、それが職員の離職率の高さやサービスの質の低下に直結するリスクを孕んでいるのです。

 

もちろん、費用が安いホームすべてが人件費を圧縮しているわけではありません。駅から遠いという立地だから、既存の建物を改装して建築費を抑えているから、大手のスケールメリットを生かしているから、ICT導入で人件費を抑えているから……企業努力で費用をぐっと抑えている場合も珍しくありません。

 

いずれにせよ、安いことには理由があり、もし周辺相場よりも安いのであれば、その理由を探るべきでしょう。

 

「安さだけで選んでしまった私が、本当に愚かでした。母の年金で、と費用ばかりに気を取られてしまいました。どんなに費用が安くても、ここでは母が安心して過ごすことができません」

 

今、費用は多少かさんでも、母が安心して過ごせる別の施設を探し始めています。

 

【参考資料】
公益財団法人 介護労働安定センター『令和5年度介護労働実態調査』
厚生労働省 第1回社会保障審議会福祉部会 福祉人材確保専門委員会 資料5『介護人材確保の現状について』