定年したら趣味三昧、のんびりしよう――。多くの会社員が、そんな“ご褒美”のような老後を夢見て、日々の仕事に耐えています。しかし、彼らを待っているのは、悠々自適の生活などではないようです。本記事では、竹本和広氏の著書『自分らしく生きる定年後の仕事 50代の働き方は「複業」で変わる!』(ごきげんビジネス出版)より、同氏が体験した「仕事がないこと」の本当の恐怖をみていきましょう。
定年後は「好きなゴルフでもしてのんびりと」の幻想…通信会社・元執行役員が54歳で早めの退職をした3か月後、図書館・スーパーで時間をもて余す老人に〈自分の末路〉を重ねた日 (※写真はイメージです/PIXTA)

「生涯現役で働く」と決めたワケ

あなたは何歳まで働きたいと考えていますか? ライフプランを考えるうえで、非常に悩ましい問題かもしれません。厚生労働省年金局の「老後の生活設計と年金に関する世論調査」(2024年3月13日)によると、「何歳まで仕事をしたいか?」という質問に対し、約4割が66歳以上と回答しています。

 

総務省「労働力調査」(2022年)では、我々先輩世代である65歳以上になると、7割が非正規雇用で働いているのが実態です。

 

私は「生涯現役で働く」と決めています。しかし会社員のときからそう思っていたわけではありません。退職後約1年間の無職経験が考え方を大きく変えました。遠回りの人生ですが、無職の経験は現在の私にとって大きな出来事でした。

 

《無職を経験するまえの私》

●会社員のときは「働かなければならない」マインドだった

●定年後は「好きなゴルフでもしてのんびり暮らしたい」と、将来の自分を深く考えず漠然と生きていた

●55歳で退職したときは「住宅ローンがあるため75歳まで働く必要がある」と、年齢で線を引いていた

無職がどれだけツラいか…予定より早めに「定年後」をリアル体験

あとさきを考えずに会社を退職した私は、2021年4月1日から約1年間、無職のまま過ごしてしまいました。定年後に何もしないことは無職になることを意味します。あなたがライフプランを考えるうえで、無職の現実も参考にしていただければと思い、私のリアルな体験をお伝えします。

 

《無職生活の毎日》

●毎朝、起きても行くところがない

●やるべき仕事もない、電話もメールもない

●用事といえば月2回ハローワークに行くくらい

●自分はヒマだけど、まわりは忙しいので遊び相手もいない

●散歩中、会社員時代に見たことのない団塊世代の先輩たちの姿を見て考えさせられた

●突然、涙が出てきた夜もあった

 

34年間の会社勤めを終えた当初の私は、自由を満喫してストレスのない生活を楽しんでいました。しかし、次第に空虚感に襲われるようになります。山梨県富士吉田市へ行き、孤独な時間を過ごしたり、ボランティア活動へ参加したり、自分探しの旅を続けましたが、仕事探しを後回しにしたことで厳しい現実に直面しました。退職後3か月目ごろから「ストレスがないことがストレス」だと感じはじめたのです。

 

「社会からの孤立感」は強烈でした。図書館やスーパーで時間をもて余す高齢者の姿を見て将来の不安を覚え、ハローワークではコロナ禍のため、自らの状況にうしろめたさを感じ、家族との関係も変化。メンタルは徐々に低下していきました。仕事がない、やることがない、つらい日々を過ごし、1日の長さを実感するなかで、社会とのつながりの重要性を再認識したのです。

 

「定年後はのんびり暮らしたい」という考えが幻想だったと思い知らされました

 

予定より早めに「毎日が日曜日」を経験したことで、私の価値観は大きく変わりました。会社員時代、不平不満をこぼしていましたが、現在は仕事があるだけでありがたいと思います。かつて嫌だった通勤さえも、行くところがあって帰る家があるのは幸せなことだと思えるようになりました。