年金や貯蓄を狙った特殊詐欺の手口は、年々巧妙さを増しています。中でも国際電話を利用した勧誘は、優しさを装うことで心の隙間に入り込み、高齢者の大切な生活資金を狙う危険があります。身近な人ほど気づきにくい違和感の中に、被害を未然に防ぐためのサインが潜んでいるのです。
これで、孫に好きなものを買ってあげられる…〈年金月12万円〉で暮らす75歳母が、国際電話の優しい男にうきうき。〈タンス預金500万円〉が消えかけた直前の急展開

「これで、お小遣いをたくさん…」母の横顔に覚えた違和感

「最近、母の様子が少しおかしかったんです。思い返せば、あれが詐欺の始まりでした」

 

そう語るのは、都内在住の会社員、鈴木健一さん(45歳・仮名)。週に一度は、都内の実家で1人暮らしをする母・恵子さん(75歳・仮名)の様子を見に行っています。小さな違和感を覚えたのは、2ヵ月ほど前のこと。

 

恵子さんは、夫に先立たれてから10年、月12万円の年金でやりくりしながら、堅実に暮らしてきました。趣味は、月に一度会いに来る孫(健一さんの子ども)にお菓子やおもちゃを買い与えること。そのささやかな楽しみのために、日々の食費を切り詰めるような、絵に描いたような「おばあちゃん」だといいます。

 

「その母が、ある時から『お金を増やして、孫にもっと好きなものを買ってあげたい』としきりに言うようになったんです。もちろん、気持ちは嬉しいのですが、どこか浮足立っているというか。電話が鳴ると、私に聞こえないように別室で小声で話すようにもなりました」

 

さかのぼること2ヵ月前のこと、健一さんが実家を訪れると、恵子さんが見慣れない海外の金融商品を思わせるパンフレットを熱心に眺めていました。光沢のある紙に、英語の文字とグラフが並んでいる。健一さんが「それ、どうしたの?」と尋ねると、恵子さんは慌ててそれを隠し、「なんでもないのよ」と話を逸らしたといいます。

 

健一さんは、母が詐欺に巻き込まれているのではないかと不安がどんどん膨らんでいきました。

 

警察庁の統計によると、2023年における特殊詐欺の認知件数は19,033件、被害総額は約441.2億円にのぼり、依然として高い水準で推移しています。特に、被害者の約7割が65歳以上の高齢者であり、肉親や公的機関の職員を名乗る古典的な手口に加え、近年ではSNS型や国際電話を利用した手口も増加傾向にあります。