(※写真はイメージです/PIXTA)
「いつか芽が出る」信じ続けた母心と20年
東北地方のとある町で暮らす高橋佳代子さん(70歳・仮名)。これまで感じたことのない焦りを覚えているといいます。原因は、東京で暮らす一人息子の翔太さん(42歳・仮名)の存在です。
翔太さんは大学進学とともに上京しました。普通に就職して、普通に結婚して――佳代子さんはそんな未来を想像していました。しかし、大学4年になり、同級生が次々と内定をもらうなか、翔太さんは夢を語り始めたのです。
「もう少し、音楽を頑張りたい」
高校生のときから始めたバンド活動。それはいつしか「ミュージシャンとして成功する」という明確な目標になっていたのです。目を輝かせながら夢を語る息子に対し、佳代子さんの夫は「そんなに甘いもんじゃない」と反対しましたが、佳代子さんは翔太さん側に立って加勢しました。最終的には夫も折れる形になったといいます。
こうして、息子の夢を応援することになった佳代子さん。その応援の具体的な形が、毎月12万円の仕送りの継続でした。夫が健在だった頃は夫婦の収入から、7年前に夫を亡くしてからは、自身のパート収入と年金を切り詰めて捻出してきました。最初は「夢が叶うまで」という気持ちでした。しかし、翔太さんの夢が叶う兆しは見えないまま、気づけば20年という歳月が流れていたのです。
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、「子に仕送りをしている」世帯の割合は、世帯主が40代の世帯で4.9%、50代の世帯でピークに達し7.8%、平均額は9.1万円です。60代の世帯では2.9%で平均10.1万円、70代の世帯では1.6%で平均8.3万円となっています。高齢の親から仕送りを受け取っている人はかなりの少数派であり、事情はそれぞれ異なるものの、経済的に依存しているケースはゼロではありません。
「いつかはきっと芽が出る、夢が叶う……そう信じていました。信じたかったんです。でも、私の人生にも終わりが見えてきました。もう、あの子の夢に付き合っている余裕はなくなってきたんです」