親子の絆はかけがえのないものですが、その「思いやり」が時に人生を狂わせることがあります。助け合いのつもりが、気づけば依存を生み、老後の生活を脅かす――そんな現実に直面する家庭が、今も少なくないのです。
だって家族でしょ…42歳の働かない息子の「無垢なひと言」に70歳母、絶句。〈月12万円の仕送り〉が招いた「老後破産」の恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

「家族でしょ?」無垢な言葉が突き刺す、老後の現実

佳代子さんを追い詰めているのは、昨今の物価高と、自身の老いです。

 

総務省が公表する東京23区の7月の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた総合指数が、2020年の平均を100として110.5となり、前年の同月より2.9%上昇しました。燃料価格の下落で電気代と都市ガス代は値下がりに転じたものの、食料品の値上がりは続いており、「生鮮食品を除く食料」は7.4%上昇し、2カ月連続で7%台となりました。いつまでも続く物価高は、確実に年金暮らしの高齢者の家計を直撃しています。

 

そして、年齢とともに負担が増す医療費。先日受けた健康診断で佳代子さんは異常が見つかったといい、医療費がさらにかさんでいくのは確実なようです。このままでは、息子どころか自分の生活すら守れない――「老後破産」という言葉が、佳代子さんの頭をよぎります。

 

「このままでは共倒れになる……」

 

意を決した佳代子さんは、翔太さんに電話をかけ、「もう仕送りをするのは難しい」と、言葉を振り絞るように伝えました。電話の向こうで、息子は数秒間黙り込みました。そして、聞こえてきたのは、怒りでも悲しみでもなく、心底不思議だと言わんばかりの、純粋な響きを持った言葉でした。

 

「え、なんで? だって家族でしょ。なんで助けてくれないの?」

 

その一言に、佳代子さんは全身の力が抜けていくのを感じました。42歳になる息子は、親からの援助を「当たり前」だと思っているのです。夢を応援するという名目で送られてきたお金を、「息子として当然受け取る権利がある」と信じ込んでいるのです。長年の無条件の応援は、息子の感覚を麻痺させてしまったのかもしれません。そして、そうさせたのは誰でもない、佳代子さん自身だったのです。

 

「ああ、私はこの子をダメにしてしまったんだ……」

 

電話口で言葉を失った佳代子さんの耳に、息子の無邪気な声が響きました。「家族だから」という情に流され、経済的な支援を続けることは、子の自立を妨げ、親の老後を破壊する「共依存」の関係に陥る危険性をはらみます。

 

このような状況から抜け出すために、いくつかのアプローチがあります。その一つが「明確な意思表示と期限の設定」です。「いつか」ではなく、「来月から仕送りをX万円減らす」「O月で完全に支援を打ち切る」といった具体的な数字と期限を、毅然とした態度で伝えることが重要です。

 

また、支援の形を「お金」から「自立に向けた行動」へ転換させることも有効です。たとえば、「就職活動に使う交通費は出す」「資格取得の講座費用は一度だけ援助する」など、本人の自立に直接結びつく行動に対してのみ支援する形に切り替えるアプローチも考えられます。

 

これらの実行が親だけで困難な場合、各都道府県や政令指定都市に設置されている「ひきこもり地域支援センター」のような公的な第三者機関に相談することも一つの手です。家族だけで抱え込まず、客観的な視点を持つ専門家を交えることで、親子関係の再構築に向けた糸口が見つかるケースは少なくありません。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』

総務省『消費者物価指数』