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しっかり者だった母の変化…始まった親子共倒れの危機
都内の企業に勤める鈴木正男さん(58歳・仮名)。悩み抜いた末、親孝行のつもりで母、春子さん(81歳・仮名)を老人ホームに入居させました。
春子さんは長年、小学校の教師を務め、夫を亡くしてからも実家で1人暮らしを続けてきました。月17万円の年金でやりくりし、趣味の短歌や友人との旅行を楽しむ、絵に描いたような「しっかり者のお母さん」だったといいます。
「変化に気づいたのは、2年ほど前の電話での会話でした。『近所の人が私の悪口を言っている』『通帳を盗まれた』など、にわかには信じがたいことを言うようになりました」
心配した正男さんが週末に帰省すると、きれいに片付いていたはずの家は荒れ、冷蔵庫には賞味期限切れの食品が詰め込まれていました。厚生労働省の統計によると、要介護(要支援)認定者数は年々増加しており、特に75歳以上でその割合は急増します。春子さんも例外ではありませんでした。正男さんは、母を東京に呼び寄せ、妻と3人での同居生活を始めます。
しかし、同居は安息の日々にはなりませんでした。環境の変化からか、春子さんの症状は悪化。夜中に突然大声をあげたり、穏やかだった妻に「嫁のくせに」と暴言を吐いたり。認知症と診断されても、正男さんは「自分が面倒を見るのが息子の務めだ」と、仕事と介護を両立させようと奮闘しました。
「母は、私がいないとパニックになるんです。トイレに行くことすらできず、私の姿が見えなくなると『見捨てられた』と泣き叫ぶ。会社を休むことも増え、心身ともに限界でした。妻も憔悴しきってしまい、このままでは共倒れになる……そう思いました」
在宅介護を続ける人の悩みとして、「家族の精神的な負担の大きさ」を挙げる声は少なくありません。正男さんは、ケアマネージャーに相談し、悩み抜いた末に、母を老人ホームへ入居させることを決断したのです。