(※写真はイメージです/PIXTA)
忍び寄る「老後破産」の影と、拭えない孤独
鈴木さんの現在の収入は、国民年金と厚生年金を合わせた月額約18万円のみ。税金や社会保険料が引かれて、手取りは15万円強。そこからアパートの家賃5万円、水道光熱費や通信費で約2万円。残ったお金で、日々の生活費をまかなっています。
「現役時代の貯蓄ですか? ほとんど残っていないんですよ。家計は全部妻に任せていたので……ダメなんですよ、妻がいないと財布の管理さえできない。浪費癖があるから、蓄えなんてアッという間に消えていきましたよ」
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の単身男性の1カ月の平均的な消費支出は15万1,946円。平均的な暮らしを前提にすると、鈴木さんは毎月トントンといったところ。ただ家計管理が上手にできておらず、貯蓄もほとんどないという状況を考慮すると、いつ破産してもおかしくないといえるでしょう。
単身高齢者が経済的に困窮しやすい背景には、いくつかの要因が考えられます。現役時代に高収入であっても、住宅ローンや教育費などで支出が多く、十分な老後資金を準備できないまま退職を迎えるケース。また、配偶者との死別や離別により、世帯収入が大きく減ってしまうことも大きな要因です。年齢を重ねるごとにかさんでいく、医療費や介護費用が生活を圧迫し、貧困に陥るリスクを一気に高めます。
「最近、持病の腰痛がひどくてね。昔、医者から手術を勧められたんだけど、まとまった費用が捻出できないから……今は痛み止めの薬でなんとかごまかしている状態です。まあ、平均寿命を超えたそうだし……もういいでしょう」
鈴木さんには、九州に住む一人息子がいます。以前は、お盆と正月には帰省をしていましたが、帰る家もなくなった今、1年に1度も顔を合わせないことも珍しくありません。
「息子が大学を卒業して就職するとき、私が『もっと安定した大企業に入れ』と息子の希望を頭ごなしに反対してしまったんです。それ以来、少しずつ溝ができてしまって。妻がいたときはよかったんですが、妻も家もなくなってからは、どうしようもなくて……私が現役時代、家庭を顧みなかったことへの罰が当たっているんでしょうか」
鈴木さんはこれまでの人生を振り返り、ポツリと寂しそうに語ります。
「仕事に打ち込んで、家族のために必死で働いてきたつもりだった。でも、振り返ってみれば、会社での肩書がなくなった今の私には、何も残っていない。妻は先に逝ってしまい、息子家族とも疎遠。毎日、この狭い部屋で一人、テレビの音だけが話し相手です。ふと、『何のために生きてきたんだろう』って、涙がこぼれることがあるんですよ」
[参考資料]
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』