一人ひとりの人生には、働き盛りの輝きと、老後に直面する現実の両面があります。豊かな現役時代を経験しても、時間の流れとともに経済や家族との関係は変化し、思い描いた老後とは異なる日々を過ごす人も少なくありません。移ろう時代と生活の狭間で、人は「生きてきた意味」に向き合うことになります。
何のために生きてきたんだろう…〈月収90万円〉の現役時代から一転、〈年金月18万円〉81歳男性。孤独な食卓で涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

忍び寄る「老後破産」の影と、拭えない孤独

鈴木さんの現在の収入は、国民年金と厚生年金を合わせた月額約18万円のみ。税金や社会保険料が引かれて、手取りは15万円強。そこからアパートの家賃5万円、水道光熱費や通信費で約2万円。残ったお金で、日々の生活費をまかなっています。

 

「現役時代の貯蓄ですか? ほとんど残っていないんですよ。家計は全部妻に任せていたので……ダメなんですよ、妻がいないと財布の管理さえできない。浪費癖があるから、蓄えなんてアッという間に消えていきましたよ」

 

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の単身男性の1カ月の平均的な消費支出は15万1,946円。平均的な暮らしを前提にすると、鈴木さんは毎月トントンといったところ。ただ家計管理が上手にできておらず、貯蓄もほとんどないという状況を考慮すると、いつ破産してもおかしくないといえるでしょう。

 

単身高齢者が経済的に困窮しやすい背景には、いくつかの要因が考えられます。現役時代に高収入であっても、住宅ローンや教育費などで支出が多く、十分な老後資金を準備できないまま退職を迎えるケース。また、配偶者との死別や離別により、世帯収入が大きく減ってしまうことも大きな要因です。年齢を重ねるごとにかさんでいく、医療費や介護費用が生活を圧迫し、貧困に陥るリスクを一気に高めます。

 

「最近、持病の腰痛がひどくてね。昔、医者から手術を勧められたんだけど、まとまった費用が捻出できないから……今は痛み止めの薬でなんとかごまかしている状態です。まあ、平均寿命を超えたそうだし……もういいでしょう」

 

鈴木さんには、九州に住む一人息子がいます。以前は、お盆と正月には帰省をしていましたが、帰る家もなくなった今、1年に1度も顔を合わせないことも珍しくありません。

 

「息子が大学を卒業して就職するとき、私が『もっと安定した大企業に入れ』と息子の希望を頭ごなしに反対してしまったんです。それ以来、少しずつ溝ができてしまって。妻がいたときはよかったんですが、妻も家もなくなってからは、どうしようもなくて……私が現役時代、家庭を顧みなかったことへの罰が当たっているんでしょうか」

 

鈴木さんはこれまでの人生を振り返り、ポツリと寂しそうに語ります。

 

「仕事に打ち込んで、家族のために必死で働いてきたつもりだった。でも、振り返ってみれば、会社での肩書がなくなった今の私には、何も残っていない。妻は先に逝ってしまい、息子家族とも疎遠。毎日、この狭い部屋で一人、テレビの音だけが話し相手です。ふと、『何のために生きてきたんだろう』って、涙がこぼれることがあるんですよ」

 

[参考資料]

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』