(※写真はイメージです/PIXTA)
華やかな現役時代と、引退後の静かな暮らし
東京都心から電車で1時間ほどの郊外、築40年を超える木造アパートの一室に住む鈴木雄一さん(81歳・仮名)。間取りは6畳と小さな台所の1K。
「まあ、男の一人暮らしなんてこんなものですよ」
そういいながら食卓に並べているのは、スーパーの見切り品だったという焼き魚と、炊いてから2日目になる白米、そしてインスタントの味噌汁。これが今日の夕食です。物価高のなか、少しでも食費を減らそうと、まともな食事は1日1回だけとのこと。
「現役の頃は、まさか自分がこんな暮らしをすることになるなんて、夢にも思いませんでしたよ」
鈴木さんは、国内有数の大手電機メーカーで、営業一筋の道を歩んできました。40代で課長、50代前半で営業部長に昇進。部下を数十人抱え、国内外を飛び回る多忙な日々。月収は最高で90万円を超えた時期もあり、生活は豊かで、何不自由ないものでした。
「当時はイケイケでしたね。毎晩のように部下を連れて飲み歩き、休日にはゴルフに出かける。サラリーマン、それが当たり前だと思っていました。妻には『あなたはお金遣いが荒いから』とよく叱られましたが、稼いでいる自負があったから」
仕事が生き甲斐であり、自分の価値そのものでした。会社の看板を背負い、大きな契約をまとめ上げることに、この上ない喜びを感じていました。しかし、60歳で役職定年を迎え、65歳で完全に会社を去ったあと、鈴木さんの人生は転げ落ちていきました。
完全リタイアから2年後、最愛の妻・和子さん(仮名)を病気で亡くし、その2年後には、維持費の負担と、一人で住むには広すぎると感じた家を手放しました。それ以来、現在のアパートで1人暮らしを続けています。