一人ひとりの人生には、働き盛りの輝きと、老後に直面する現実の両面があります。豊かな現役時代を経験しても、時間の流れとともに経済や家族との関係は変化し、思い描いた老後とは異なる日々を過ごす人も少なくありません。移ろう時代と生活の狭間で、人は「生きてきた意味」に向き合うことになります。
何のために生きてきたんだろう…〈月収90万円〉の現役時代から一転、〈年金月18万円〉81歳男性。孤独な食卓で涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

華やかな現役時代と、引退後の静かな暮らし

東京都心から電車で1時間ほどの郊外、築40年を超える木造アパートの一室に住む鈴木雄一さん(81歳・仮名)。間取りは6畳と小さな台所の1K。

 

「まあ、男の一人暮らしなんてこんなものですよ」

 

そういいながら食卓に並べているのは、スーパーの見切り品だったという焼き魚と、炊いてから2日目になる白米、そしてインスタントの味噌汁。これが今日の夕食です。物価高のなか、少しでも食費を減らそうと、まともな食事は1日1回だけとのこと。

 

「現役の頃は、まさか自分がこんな暮らしをすることになるなんて、夢にも思いませんでしたよ」

 

鈴木さんは、国内有数の大手電機メーカーで、営業一筋の道を歩んできました。40代で課長、50代前半で営業部長に昇進。部下を数十人抱え、国内外を飛び回る多忙な日々。月収は最高で90万円を超えた時期もあり、生活は豊かで、何不自由ないものでした。

 

「当時はイケイケでしたね。毎晩のように部下を連れて飲み歩き、休日にはゴルフに出かける。サラリーマン、それが当たり前だと思っていました。妻には『あなたはお金遣いが荒いから』とよく叱られましたが、稼いでいる自負があったから」

 

仕事が生き甲斐であり、自分の価値そのものでした。会社の看板を背負い、大きな契約をまとめ上げることに、この上ない喜びを感じていました。しかし、60歳で役職定年を迎え、65歳で完全に会社を去ったあと、鈴木さんの人生は転げ落ちていきました。

 

完全リタイアから2年後、最愛の妻・和子さん(仮名)を病気で亡くし、その2年後には、維持費の負担と、一人で住むには広すぎると感じた家を手放しました。それ以来、現在のアパートで1人暮らしを続けています。