高齢化、長寿化を見据えて、生涯現役で働き続けられるよう整備されつつあります。老後もなお働くことを前提に準備を進めている人や、そもそも準備すらしていない人も珍しくないでしょう。しかし、人生、思い通りにいくとは限りません。想定が崩れたとき、直面するのは地獄のような現実です。
助けて、もうお金がない…〈年金月3万円〉68歳男性の絶望。〈家賃2万2,000円の市営団地〉で迎えた「想定外の老後」とたったひとつの過ち (※写真はイメージです/PIXTA)

「生涯現役」という非現実…年金月3万円生活へ

内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、男性の場合、就業者の割合は60~64歳で84.4%、65~69歳で61.6%、70~74歳では42.6%。65歳を超えても働くほうが大多数です。鈴木さんが「70代、いや80代までは余裕で働ける」と考えていたのは、決して無理もないことだったのかもしれません。社会全体が、高齢者が働き続けることを前提に変わってきているのですから。

 

常に「正解」と唱えてきた鈴木さんでしたが、いま、自身の人生を振り返り、「たった1つ、間違えたことがある」といいます。それは「老後のことをまったく考えてこなかったこと」なのだと。

 

「今は、年金保険料払わないと、結構うるさいんだろ。昔は今のように言われなかった。ざるだよ、ざる」

 

前述のように、鈴木さんが受け取る年金は月3万円ほど。一方、令和7年度の基礎年金は、満額で月6万9,308円。単純計算、40年間払う国民年金保険料を18年ほどしか払っていない計算です。

 

「本当に、もうお金がないだよ。月7万円――もらえたら、ずいぶん違うんだろうけど、好き勝手やってきたのに、今さら『助けて』なんていえんよな」

 

長年の肉体労働で酷使したツケが回り、少し歩くだけで膝に激痛が走るようになったのです。自慢の体力も、今や見る影もありません。肉体労働以外の仕事を探してみるものの経験がなく、年齢と健康状態を理由に断られるばかり。

 

スーパーの品出しの仕事で採用が決まりましたが、立ち続けることができずに数週間で辞めざるを得ませんでした。

 

「働いて給与を得て生活する」という当たり前は終わり。そして1カ月の収入は、わずか年金月3万円だけに……これでとても生活できるわけがありません。

 

厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、高齢者の世帯における総所得に占める公的年金の割合は、「100%」という世帯が43.4%、「80~100%」が16.4%。高齢者がいかに“年金頼り”かがわかります。鈴木さんのように、「働くという選択肢」が突然断たれた時、年金の備えがない高齢者がいかに脆い立場に置かれるか、容易に想像できます。

 

「好き勝手生きてきたのに、今さら『助けて』なんて……恥ずかしくて言えやしない」

 

そんなプライドを口にするものの、食べていくこともできない現実はどうしようもありません。現在、鈴木さんは行政の窓口に相談し、生活保護の申請を準備しているといいます。

 

[参考資料]

内閣府『令和6年版高齢社会白書』

厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』