「お客様は神様」という、昔よく聞いた言葉。今なお、死語ともいえる言葉を伝家の宝刀のように振りかざしている人もいます。しかし、老人ホームではその意識が時に悲劇を生むことがあります。現役時代のエリート意識を捨てきれない男性の末路をみていきましょう。
(※写真はイメージです/PIXTA)
介護現場の悲鳴「困っていること」1位はハラスメント
高橋さんのようなケースは、決して特殊な例ではありません。
株式会社SOKKINが行った『介護士の職場でのカスハラ実態調査』によると、「利用者とのかかわりで困った経験がある」という回答は全体の96%。具体的な内容を尋ねると、トップは「ワガママ・言うことを聞いてくれない」で39%。「認知症患者の対応」(36%)、「業務外の頼みごとをされる」(15%)と続きます。また「利用者から暴力やハラスメントを受けたことがありますか?」の問いには、88%が「ある」と回答。「身体的暴力」は71%、「精神的暴力」は53%、「セクハラ」は44%。残念ながら、介護の現場でカスハラは日常、というのが現実です。
高橋さんの「俺は客だぞ!」という言動は、まさにこの調査結果を象徴するもの。介護施設は入居者が尊厳を保ちながら安全に「生活」を営むための場所であり、スタッフはそれをサポートする専門職、いわば対等なパートナーです。しかし、利用者側が一方的に「金銭を払っているのだから、何をしても許される」という「お客様意識」を持ち、ときに暴走してしまうことは珍しいことではないのです。
[参考資料]
株式会社SOKKIN『介護士の職場でのカスハラ実態調査』