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鳴り響くナースコール…元エリートの終わらない現役時代
都内の介護付き有料老人ホームに勤務する介護スタッフの佐藤さん(30代・仮名)は、これまで多くの入居者を見送ってきましたが、高橋信夫さん(82歳・仮名)ほど鮮烈な印象を残した人はいないといいます。
高橋さんが入居してきたのは、今から半年前のこと。身の回りのことはほとんど自分でできるものの、妻に先立たれ、一人暮らしの将来に不安を感じた息子さんが入居を決めたといいます。大手商社に勤務し、役員を目前に退職したという、誰もが認める元エリート。現役時代は高給取りで周囲より豊かな生活を送り、(自身いわく)引退後は月21万円と、平均を大きく上回る年金を受け取っていました。その経済的余裕が高橋さんのプライドを支えていたのでしょう。入居当初こそ「紳士」という印象でしたが、そのメッキはすぐにはがれ始めます。
「とにかく、スタッフを“使う”という意識が人一倍強い方でした。ナースコールを1日に何十回も鳴らすんです。用件は『テレビのリモコンを取ってくれ』とか『少し寒いから空調を調整しろ』とか、ご自身で十分にできることばかり。まるで、我々をホテルの従業員か何かと勘違いしているようでした」
食事の時間が少しでも遅れれば「いつまで待たせるんだ!」、レクリエーションに誘えば「そんなくだらない子ども騙しに参加できるか」と吐き捨てる。他の入居者に対しても、現役時代の武勇伝を一方的に語っては「君の会社はうちの取引先だったよ」などと見下した態度をとるため、すぐに孤立していきました。
高橋さんの口癖は、決まって「俺は客だぞ!」でした。月々の決して安くはない利用料を支払っているのだから、自分は最大限丁重に扱われるべき存在であるという意識が、その言動の端々から滲み出ていました。リタイアから20年が経っても、高橋さんの心は部下を大勢抱えていた現役時代から、少しも抜け出せていないようでした。