もぬけの殻になった義実家…1年越しに知った衝撃の真実
義実家の最寄り駅に降り立った佳代さんは、見慣れた田園風景のなかをタクシーに揺られながら、言いようのない緊張に襲われていました。そして義実家の前に到着。何も変わらないように見えましたが、どこか静まり返っているような、人の気配が感じられません。呼び鈴を何度か押してみても応答はなし。覚悟を決め、合鍵で鍵を開けて、中に入ります。
「ごめんください、お義母さん。佳代です」
声をかけながら家に上がった佳代さんは、目の前に広がる光景に言葉を失いました。家の中は、がらんどうだったのです。いつも座っていた応接間のソファも、亡き夫の写真が飾られていた整理箪笥も、食事をとっていたダイニングテーブルも、すべてが跡形もなく消え去っていました。そこにあったのは、長年住み続けた生活の痕跡だけがきれいに拭い去られた、空っぽの空間でした。
「何が起きたのか、まったく理解できませんでした。頭が真っ白になって、しばらくその場に立ち尽くしていました。泥棒? 夜逃げ? そんな言葉ばかりが頭に浮かんで」
パニックになりながらも、佳代さんは隣近所の家を尋ねると、「春枝さん、施設に入るって。何週間前のことかな」という情報が得られたのです。その後、佳代さんはいろいろと情報をかき集め、ようやく佳代さんが入居しているという介護付き有料老人ホームに入所していることを突き止めたのです。
施設で再会した春枝さんは、少し痩せていたものの、穏やかな表情で窓の外を眺めていました。佳代さんの姿を認めると、一瞬驚いたように目を見開き、それから静かに微笑みました。そこに施設の職員がやってきて、佳代さんに静かに声をかけました。そして、そこで語られたのは、衝撃の事実でした。
「春枝さんの身元保証人は、春枝さんの弟様がなってくださっています。春枝さんから『義理の娘には、絶対に迷惑をかけたくない。私がここにいることも、連絡もしないでほしい』と、強く、強くお願いされまして……」
職員の言葉に衝撃を受けた佳代さん。春枝さんに弟がいたことは、亡くなった夫から聞いたことがありましたが、何十年も疎遠だと聞いていました。そして、追い打ちをかけるように、春枝さんは認知症の初期段階と診断され老人ホームへの入居を決めたことも、そこで初めて知らされたのです。
「他人だから」という言葉は、病識があった春枝さんが、これ以上佳代さんに迷惑をかけまいと、自ら関係を断ち切るために発した言葉でした。誰にも相談せず、唯一頼ったのが疎遠だったはずの実の弟だったのです。身の回りのものを処分し、自らの意思で施設への入所を決めていたのでした。
「一人で病気の不安と闘いながら、疎遠だった弟さんを頼って、すべてを片付けていたなんて……。なぜ私がもっと早く気づいてあげられなかったのだろう、という後悔で、胸が張り裂けそうでした」