「大転職時代」といわれる昨今、その波は、かつて最も安定した職業の代名詞だった公務員、特にエリート中のエリートである「キャリア官僚」にまでおよんでいます。国を動かすという大きな使命と、誰もが羨むブランドを手にした彼らが、なぜその輝かしい地位を捨ててまで転職を選ぶのでしょうか。本記事ではAさんの事例とともに、現代日本の「働き方」について、元国家公務員の川淵ゆかり氏が解説します。
は、吐きそうだ…志高く「国家公務員」になった月収24万円・23歳男性。入省4ヵ月後、霞が関で目の当たりにした「ヤバすぎる光景」にえずき【元国家公務員が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

彼女からの衝撃の一言

残業の多いAさんにも彼女ができ、結婚も考えるようになったころの話です。家庭的な彼女は、忙しいAさんのためにマンションの部屋の掃除に来てくれたり手料理を作ってくれたりする優しい女性。「結婚したら子どももできるだろうし、少しは早く帰れる仕事に就いて、ゆっくり家族と過ごしたいな」そんな思いを抱くようになりました。

 

ある日、Aさんは思い切って彼女に転職について告白をします。優しく背中を押してくれると思っていた彼女から飛び出たのは、予想外の激しい言葉でした――。

 

「キャリア官僚だからお父さんも交際を許してくれたのに! 私もお掃除やお料理頑張ったのよ。転職したってうまくいくとは限らないんでしょ! もう一回冷静になって考えてよ!」

キャリア官僚の退職者

中堅・若手官僚の離職増加が問題となっていますが、人事院の発表によると5年~10年未満の退職者が目立って多くなっています。特に平成26年の採用組については実に23.6%が退職しており、採用された職員のおよそ4分の1近くがすでに退職してしまっている状況です。

 

採用から5年経過した令和元年採用組の5年未満の退職率も13.4%と高くなっていて、近年の転職ブームからか、若手官僚の退職時期が早期化しているのも問題です。

 

出所:人事院「総合職試験採用職員の退職状況について」
[図表1]退職年度別・在職年数別の退職者数 出所:人事院「総合職試験採用職員の退職状況について」

 

退職者は増加、申込者は減少

キャリア官僚になるための国家公務員採用総合職試験は年に2回実施されますが、申込者数は年々減少しており、2024年度秋試験と2025年度春試験の申込者数の合計は16,762人。前年に比べると4.8%減少しています。民間企業との人材獲得競争も激化しているのでしょう。優秀な人材の確保も難しいようです。

 

出所:人事院「2025年度国家公務員採用総合職試験の申込状況等について」
[図表2]人事院「2025年度国家公務員採用総合職試験の申込状況等について」 出所:人事院「2025年度国家公務員採用総合職試験の申込状況等について」

大手コンサル企業への転職

その後、Aさんは彼女とも別れ、大手コンサル企業への転職を果たしました。

 

「入省直後は、国のために働きたいとか自分の力で国を動せる、と思っていたのは本当の気持ちです。ですが、日々の流れに自分を見失いそうになってしまったんです。彼女にはわかってもらえると思って僕の気持ちをぶつけたんですが違ったようですね。両親も最初は転職にとまどっていたようですが、僕が職場で泊まり込んだり終電ギリギリで帰ってきたりする姿をみていたせいか、身体を心配していたようで、いまでは静かに見守ってくれています」

 

以前に比べると少しふっくらとしたAさんに「次は彼女ですね」というと、照れたように少し微笑みました。