親の老いと自分自身のキャリア。その板挟みで悩む現役世代は決して少なくありません。内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、家族の介護や看護を理由とした離職者数は年間約10.6万人に上り、そのうち女性が全体の7割以上(75.3%)を占めています。なかには、親の高齢化に伴い、独身の子が親と同居して生活を支えるケースも。しかし、一見すると安定しているようにみえる家庭内でも、精神的な閉塞感や経済的な依存関係が深刻化している実態があります。「親を支えるのが当たり前」という価値観に縛られ、自分の人生を後回しに……。ある母娘のケースをみていきましょう。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
「娘に捨てられました」…月収30万の41歳ひとり娘、ギャン泣きする〈年金7万円の69歳母〉の腕を振りほどいて、生まれて初めて“実家を出た”理由【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

父の急逝から15年…「依存母」を支えてきた41歳娘の日常

A子さんは41歳の会社員です。地元の国立大学を卒業以来、大手企業の北関東支店の営業部門に所属。仕事に対しては上昇志向が強く、実家から通いながらキャリアを積み上げてきました。

 

A子さんの父親はかつて自分の陶芸作品を売り、陶芸家として地元で陶芸教室を開いていた自営業でした。しかし、いまから15年ほど前に病で突然この世を去ってしまったのです。ひとりっ子だったA子さんは、それ以来、現在は69歳になる母親と実家で二人暮らしを続けてきました。

 

父親が自営業だったため、母親に遺族年金などはありません。そのため実家の生計は、母親が受給する月額約7万円の国民年金と、A子さん自身の仕事の収入で成り立っていました。

 

この母親は、もともと父親が開いていた陶芸教室の教え子でした。そこから恋愛関係に発展し、結婚したという経緯があります。ただ、母親にとって陶芸はあくまでも興味本位の趣味に過ぎず、結婚後は完全にやめてしまいました。内向的な性格のため、夫の仕事に口を出すこともなく、専業主婦として家庭に収まります。夫を支えるというよりは、夫を頼りに生きてきたという女性です。

「私の人生、このままでいいの?」40代を迎えて押し寄せる焦燥感

女二人の生活は気楽でしたが、血圧が高くリウマチを抱える母親を、月に1回、会社を休んで病院に連れていくのは大変でした。病院くらい1人で行ってくれればいいのですが、「タッチパネルの操作方法がわからない」とか「お医者様の説明がわからない」といった理由で、A子さんに甘えてきます。

 

「旅行でなく、病院通いで有給休暇を使うなんて……」とA子さんはため息。母親は外出そのものを嫌がるため、日々の食材の買い出しも、A子さんが仕事帰りに両手に荷物を抱えて帰宅するという生活が当たり前になっていたのです。

 

そんなA子さんもこれまで結婚を考えたことが2度ほどあります。実際に、母親に男性を紹介したこともありました。ところが、男性が帰った途端、母親はこう言い放つのです。

 

「あの人、お婿さんに来てくれるかしら?」

 

「A子ちゃんはお嫁に行っても家事ができないんだからお姑さんにいじめられるわよ」

 

母親はなにかと理由をつけては、娘の結婚を心理的に妨害してきました。当時はA子さん自身も仕事が楽しくて充実していた時期だったこともあり、強く反発することもないまま、気がつけば40代を迎えてしまっていたという経緯があります。

 

また仕事の面でも、かつて大学の同窓会でサークル仲間から「東京の会社に転職しないか」と勧められたことがありました。しかし、「内向的な母親を1人きりにして上京するのは忍びない」という罪悪感が勝り、結局そのチャンスを不意にしてしまいます。あのとき一歩を踏み出せなかったことは、いまでも彼女の心に深い棘として残っていました。