「大転職時代」といわれる昨今、その波は、かつて最も安定した職業の代名詞だった公務員、特にエリート中のエリートである「キャリア官僚」にまでおよんでいます。国を動かすという大きな使命と、誰もが羨むブランドを手にした彼らが、なぜその輝かしい地位を捨ててまで転職を選ぶのでしょうか。本記事ではAさんの事例とともに、現代日本の「働き方」について、元国家公務員の川淵ゆかり氏が解説します。
は、吐きそうだ…志高く「国家公務員」になった月収24万円・23歳男性。入省4ヵ月後、霞が関で目の当たりにした「ヤバすぎる光景」にえずき【元国家公務員が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

キャリア官僚の戦場・霞が関

大転職時代といわれる昨今、転職希望者は1,000万人を超えるともいわれています。公務員も例外ではなく、転職を考える人も多いようです。

 

霞が関のとある省庁にキャリアとして勤める29歳のAさんも転職について真剣に考えていた一人です。実はAさんが転職について考えはじめたのは新卒として就職したばかりの時期、当時はまだ23歳でした。新人で慣れない仕事に追われ、残業が続いていたころ。残業に苦しんでいたのはAさんのような新人だけではなく、省内のほとんどの人間が「残業は当たり前」といった状態で働いていたのです。

 

当時のAさんは「噂には聞いていたが、こんなにハードなのか?」と思いながら、毎朝母親に叩き起こしてもらい、重い身体を引きずって満員電車に乗り込む生活を送っていました。新人だったAさんが衝撃を受けたのは、入省から4カ月目。夜遅く、トイレに行ったときに30代の先輩がトイレで戻しており、そのまま倒れこんでしまったことを目撃したことでした。Aさんは釣られて自分も吐きそうに……。その先輩はまもなく休職に入りましたが、トイレでの一件が忘れられず、そのころから「転職」という文字が頭をかすめるように。

 

ですが、「キャリア官僚」というブランドから、なかなか家族には転職したいことを伝えられませんでした。現在は都内の賃貸マンションに住んでいて通勤もかなり楽になりましたが、それでも月に100時間近い残業に耐える日々です。

 

自分自身がリバース&ダウンした先輩の年齢にだんだんと近づいています。30代40代になったときに、どのように生きていきたいのか、強く考えるようになりました。そして、本格的に転職の準備を始めたのです。