(※写真はイメージです/PIXTA)
「元部下に使われるのは嫌だった」60歳定年で完全リタイア生活へ
Aさん(61歳)は昨年、大学卒業から勤めていた企業を無事に定年退職しました。若いころは同期の中でも出世が早く、“エリート組”と呼ばれていたこともあったそうです。
しかし、受け取ることができた退職金は約900万円。30年以上勤めた割には少ないと感じましたが、役職を外れた時点で覚悟していた金額でもありました。
元部下に使われるのが嫌だったので、再雇用制度は利用せず、自分のキャリアを信じて再就職先を探しました。しかし、特に資格も専門スキルも持っていないせいか、希望するデスクワークではどれだけ応募しても面接にすら辿りつけない日々が続きます。身体を使った仕事の経験がないAさんは、そのまま就職を諦め、家でブラブラする毎日に。ですが、まだ61歳。時間を持て余す生活が続いていきます。
帰宅した妻との「無言の食卓」…居場所を失い、少し離れた図書館へ
一方、同い年の妻は若いときから快活な人です。一人息子が大学を卒業して家を出た10年ほど前から、駅の近くのオフィスビルで清掃のパートタイマーとして勤務。朝早くに出勤し、お昼前には帰宅するという規則正しい生活を続けています。
平日の朝、妻が出ていったあと、Aさんはのそのそと起き出します。パンとコーヒーを自分で用意して軽い朝食をとり、午前中はスマホやパソコンを覗いて時間を潰すのが日課となりました。昼食は、帰ってきた妻が用意して二人で向かい合って食べますが、ほとんど会話はありません。
「向かい合う妻の視線が、どこか冷たく感じられて……。そのたびに、この家の中で自分の存在がどんどん薄くなっていくような恐怖を覚えました」
働いていないことで家に居づらくなったAさんは、昼食が終わると外出するように。そのうち、黙って出ていっても妻はなにもいわなくなりました。
最初は近所の公園やショッピングセンターの休憩所で時間を潰していたのですが、近所の人に会って声を掛けられるのを苦痛に感じ、少し離れた図書館に通うようになりました。図書館は、同年代の男性も多く、通い詰めるうちに顔見知りもできました。
子どものころから読書はそれほどしたことがありません。それでも、冷暖房は効いていて静かで、誰も話しかけてこない空間は、Aさんにとってお気に入りの場所になりました。新聞や週刊誌を読んで夕方の6時過ぎまで時間を潰すのです。
他人からみれば、のんびりした毎日を過ごしているように映ったかもしれません。しかし、当時を振り返ると、苦悩ばかりだったそうです。
「図書館のパイプ椅子に座りながら、俺の30数年は何だったんだろう。こんな日々を送るためだったのか?と、何度も考えていました」
時には喫茶店に入ったり、少し遠出をして気分転換をしたりできる小遣いはありました。しかし“無収入”という手前、妻のことを考えると貯蓄はそれなりにあってもお金をかけることに罪悪感を抱いてしまいます。
夜、家に戻り、妻が作った夕食を再び無言で平らげます。朝が早い妻は、さっさと寝室に引き上げてしまうため、Aさんは妻の睡眠の邪魔にならないよう、息子の昔の部屋で寝起きしています。夜な夜な、息子が残していった漫画やゲームで遊ぶ生活。
想像とはあまりにもかけ離れたリタイア生活です。