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蔑まれ続けた結婚生活、友人の助言
大手企業で部長職まで務め上げた元夫・健一さん(仮名・60歳)が定年退職を迎えたあと、妻・田中良子さん(仮名・59歳)さんは35年暮らした家を後にしました。
良子さんの結婚生活は、決して平穏なものではありませんでした。有名大学を卒業し、一流企業で出世街道を突き進む夫。その傍らで、良子さんは常に健一さんからの精神的なプレッシャーに晒され続けていたといいます。
「夫は外面だけは本当に良い人なんです。会社での評価も高く、近所付き合いもそつなくこなす。でも、家ではまったくの別人でした。『誰のおかげで生活できていると思っているんだ』『お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ』と毎日のように言われ続けていました」
子どもたちが小さいうちは、「父親」という存在を奪うわけにはいかないと必死に耐えてきました。しかし、子どもたちが独立して夫婦二人の生活になったあたりから、健一さんの言動はさらにエスカレートしていったといいます。趣味の集まりに参加しようとすれば「そんな無駄な金があるのか」と嫌味を言われ、友人と食事に行けば「どうせ夫の悪口で盛り上がっているんだろう」と決めつけられる。そんな毎日を打破したくて、パートに出たいと言ったときは「俺の稼ぎが悪いというのか!」と激昂されたとか。
内閣府男女共同参画局『男女間における暴力に関する調査報告書(令和2年度)』によると、これまでに結婚したことのある人に配偶者から被害*を受けたことがあるかを聞いたところ、女性の25.9%が「あった」と回答。また女性の14.6%が心理的攻撃を受けたことがあると答えています。良子さんのように、家庭内で見えない暴力に苦しんでいる人は決して少なくありません。
*身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧迫、性的強要
息苦しい毎日。唯一、パートに出られる時間だけは、夫から解放される……そんな思いだったといいます。
「いっそ、すべてを投げ出して家を飛び出してしまおうかと思ったことも一度や二度ではありません。しかし、パートの時給は1,020円あまり。最大限シフトに入ったとしても15万円程度にしかなりません。一生、あの人から離れられない……。そんな絶望感のなか、学生時代からの友人が『もう少しだけの辛抱。旦那さんが退職金を手にして、正当な対価を受け取ったら、堂々と家を出なさい』と励ましてくれたんです。それだけを支えに生きてきました」