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夜な夜な自室にこもってしていたことは…
40年以上勤め上げた地方の部品メーカーを昨年定年退職した鈴木誠一さん(仮名・66歳)と、その妻・智子さん(仮名・65歳)。退職金は約1,800万円。夫婦2人の年金、月額合計28万円(夫17万円、妻11万円)。たまに贅沢ができる程度の余裕のある老後が送れると信じていました。
「若い頃からコツコツとお金を貯めて、ようやく手にした自由な時間でした。たまに妻と旅行に行ったり、趣味の盆栽に時間を使ったりと、穏やかに過ごしていく。そんな未来しか想像していませんでした……」
時折言葉を詰まらせながら、力なく語る鈴木さん。その表情からは、深い後悔の念がひしひしと伝わってきます。
長年の会社員生活で染みついた真面目さが、退職後の自由な時間を持て余させたのかもしれません。総務省『令和4年通信利用動向調査』によれば、60代のインターネット利用率は85.9%。鈴木さんも現役時代からパソコン操作には慣れていたため、退職後は時間潰しにネットサーフィンをするのが日課となっていったそうです。
そんなある日のこと。鈴木さんは、あるネット広告に目を奪われます。「スマホ一つで始める、第二の人生の生きがい」「あなたの資産を10倍に」。それは、外国為替証拠金取引、いわゆるFXの広告でした。
「最初は、怪しいものだと思っていました。投資なんて、自分のような真面目な人間が手を出すものではないと。でも、広告の体験談を読むうちに、『これなら自分にもできるかもしれない』『退職金に手を付けず、年金の足しになるくらい稼げれば、妻をもっと楽させてやれる』と、そんな風に思うようになってしまったんです」
初めは5万円、10万円と、お小遣いの範囲で始めました。ビギナーズラックか、面白いように利益が出ます。チャートと呼ばれるグラフの動きを眺めていると、まるで自分が世界経済を動かしているような高揚感を覚えたといいます。
智子さんには、「パソコンの勉強をしている」「昔の同僚とメールをしている」などと嘘をつき、自室にこもる時間が増えていきました。智子さんが寝静まった深夜、煌々と光るモニターの前で数字の変動に一喜一憂する。それが誰にも言えない「夜の愉しみ」となっていた、と鈴木さんは打ち明けられました。