「毎日が日曜なんて最高だな!」とはじまるリタイア後の生活。しかし、実際には思わぬ落とし穴が潜んでいます。身近に感じる親切心や穏やかな日常も、時には私たちの暮らしを崩壊させることもあるのです。
毎日が日曜なんて最高だな!〈年金15万円〉65歳リタイア男性、趣味は家庭菜園、自炊を徹底…節約を心がけていたはずが、老後を崩壊させる「親切な訪問者」の正体 ※写真はイメージです/PIXTA

高齢者を狙う「点検商法」の実態と急増する被害

松永さんが巻き込まれたのは、いわゆる「点検商法」。高齢者を中心に被害が相次ぐ悪質な詐欺まがいの営業手法です。

 

国民生活センターが発表した資料によると、2023年度、契約当事者が65歳以上の消費生活相談について、商品役務等別では、65歳以上では相談の6位に「修理サービス」(6,630件)、8位に「屋根工事」(6,124件)。65歳未満では「修理サービス」は13位(8,645件)、「屋根工事」は20位以内に入っていません。また販売購入形態別にみていくと、65歳以上では「訪問販売・購入」は全体の14.9%。65歳未満は6.6%と65歳を境に倍以上となります。松永さんがあった点検商法は、まさに高齢者が巻き込まれやすいものといえそうです。

 

「無料点検」の名目で訪問し、実際には不要な修理や誇大な工事内容を押し付け、高額な契約を結ばせる手口が多く報告されています。一度契約をすると、個人情報が名簿化され、他業者に「カモリスト」として流通することもあるといいます。松永さんも「最初の業者に対応してから、別の業者が頻繁に来るようになった」と語ります。

 

「ちゃんと自分の生活を管理できていたと思っていたんです。贅沢もしていないし、人付き合いも控えめ。そんな自分がまさか、こんな風にお金を失うとは夢にも思いませんでした」

 

問題を深刻化させるのは、こうした業者が必ずしも違法ではないという点。契約書を交わし、形式的には「説明済み」となっているため、法的には「本人の同意のもとに契約が成立」したとみなされる場合が多い。

 

「役所に相談したとき、『契約自体を取り消すのは難しい』と言われて、呆然としました。結局、自己責任と言われてしまうんですね」

 

近年、消費者庁や地方自治体でも啓発活動を行っていますが、「悪質業者は次々と新しい手口を開発している」とされ、いたちごっこの様相を呈しています。

 

松永さんは現在、訪問業者にはすべて対応せず、インターホン越しに断ることを徹底しています。

 

「お金だけじゃなく、自信も失いました。今はもう、静かに暮らしたいだけなんです」

 

高齢者の暮らしを脅かす「悪魔」のような訪問者。節約に励み、堅実に生きてきたつもりでも、悪意のある「親切心」には警戒が必要です。

 

[参考資料]

独立行政法人国民生活センター『65歳以上の消費生活相談の状況』