年金を「いつから」「どのように」受け取るか──その選択は、老後の暮らしに大きな影響を与えます。制度の仕組みや金額の増減だけでなく、予期せぬ出来事や家族との関係もまた、人生設計を左右する要素となり得るようです。
年金は65歳でもらうべきでした…〈年金月27万円〉74歳父、〈繰下げ受給で月8万円増〉でも「報われない老後」。原因は45歳長男の「まさかのひと言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

崩れる老後プラン…お金に余裕がなければ、こんなことには…

「俺だって、ちゃんとしたいよ。でも生まれるタイミングが悪かったんだ。氷河期世代はつらいんだよ」

 

茂さんもかつては大輔さんのことを同情していました。時代の犠牲者なのだと。だからこそ、年老いてから子どもたちの世話になってはいけないと頑張ってきたのです。しかし、長男の大輔さんからは、時代のせいにするだけで努力する姿勢を感じることはなく、同情はいつしか焦りに変わっていきました。

 

「このままでは、私がいなくなったら、大輔はどうやって生きていくのだろう……」

 

もし65歳で年金を受け取っていたら。毎月の収入は「自分の生活だけ」で精いっぱいで、今のように余裕はなかったでしょう。大輔さんが頼ってきたとしても、自分のことで精一杯と距離を置くことができたかもしれません。

 

「こんなことになるなら、年金なんて、さっさともらうべきでした」

 

年金の受取額を増やせる繰下げ受給は、確かに魅力的な制度です。しかし、茂さんのケースは、増えた年金額が予期せぬ「扶養」という形で支出につながってしまった、皮肉な現実を示しています。長引く不況や働き方の変化は、子ども世代の経済的な自立を困難にし、親世代の老後設計に直接的な影響を及ぼします。

 

年金の繰下げ受給を含め、老後の生活設計において大切なのは、「不確定要素」をいかに織り込むかです。自身の健康問題や、今回のような家族の経済的な依存など、想定外の事態でも起こりうる可能性を冷静に受け止め、対策を考えておく必要があります。制度を賢く利用するためには、金額の計算だけでなく、家族との対話を通じたリスク管理が不可欠といえるでしょう。

 

[参考資料]
日本年金機構『年金の繰下げ受給』
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』