異常な暑さが続く2025年の夏。「昔はこんなに暑くなかったのに……」というため息が聞こえてきますが、生活環境や価値観は簡単に変えられず、そのギャップが高齢者の暮らしを思わぬ危険にさらすことも。
助けて!実家で暮らす〈年金月15万円〉79歳母の悲鳴…駆けつけた55歳息子が目にした「想像を超える惨状」 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の姿がない…ようやくつながった電話の向こうから聞こえたのは

室内のあまりの暑さに驚いた徹さんは、母を探しましたが、どこにも見当たりません。寝室も風呂場も、裏庭にも人の気配はなし。冷蔵庫の中には前日から手をつけていない食材がそのまま残っていました。

 

「この暑さで倒れたんじゃないかと、本気で焦りました」

 

数十分後、やっと政子さんの携帯に電話がつながりました。「おお、徹か。どうした?」と呑気に言うので、力が一気に抜けてしまったといいます。

 

「朝、あまりに暑かったから、家にいられなくて。少しでも涼しいところを探して転々として。9時にスーパーが開くから、ずっとそこのベンチにいたのさ。あそこは冷房が効いていて快適だから」

 

徹さんが急いでスーパーに迎えに行くと、母は麦わら帽子をかぶり、手にタオルを握りしめてベンチに座っていました。保冷バッグには溶けかけた氷水のペットボトル。母は「涼しいけど、座っているだけで体がだるいわね」とつぶやきました。連日の暑さがこたえているようです。

 

徹さんはその日のうちにエアコンを設置するため、家電量販店をいくつも回りました。しかし、どの店舗でも「設置工事は最短でも3週間待ちです」と告げられました。「今すぐつけてもらわなければ意味がないのに……」と肩を落とす徹さん。とりあえず、冷感マットや冷却枕、冷却シート、小型扇風機、冷却スプレーなど、とにかく使えそうな冷感グッズを大量に購入して実家に戻りました。

 

帰宅した徹さんは、政子さんのために床に冷感シートを敷き、氷水を用意。扇風機を3台同時に稼働させ、その前には氷を置き、冷風が届くようにしました。

 

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護の調査によると、8割以上の高齢者が熱中症にならないよう気をつけていると回答。一方、子世代の6割以上が離れて暮らす親の熱中症が心配だといい、心配する理由の3割が「親がエアコンを使っていない」でした。実際エアコン嫌いな高齢者は多く、その背景には、エアコン設置費用のほか「電気代がもったいない」「昔は扇風機だけで十分だった」という我慢の習慣が根強く残っていることがあるようです。

 

徹さんは、実家での3日間の滞在中、仮設的な冷房環境を整えつつ、3週間後にはなりますが、エアコン工事も予約。また今後、政子さんが無理せず快適に暮らせるように福祉サービスや地域の見守り制度の導入も検討したといいます。

 

「今回はたまたま電話が来て、すぐ動けたからよかった。でも、もし連絡がなければどうなっていたか……」

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支(2024年平均)』

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『LIFULL 介護が高齢の親と、親と離れて暮らす子を対象に熱中症予防に対する意識調査を実施』