高齢化が進むなか、高齢の親を家族で介護するか、それとも施設を利用するか、選択を迫られることはあるでしょう。一見安心に思える「老人ホーム」という選択肢にも、見落としがちな落とし穴が潜んでいます。
愚かでした…〈年金16万円〉82歳母を老人ホームに入居させた52歳長女。真夜中の緊急コールで駆けつけた先に待つ「安易な決断の末路」 (※写真はイメージです/PIXTA)

もう、一人では無理…突きつけられた母の限界

夫と高校生の息子と暮らす佐藤恵子さん(仮名・52歳)。隣町の実家で一人暮らしを続ける母・正子さん(仮名・82歳)のことが常に気がかりで、週に一度は様子を見に行っていました。その「気掛かり」が「恐怖」に変わったのは、ある晴れた日のこと。

 

消防車のサイレンがけたたましく鳴り響き、煙の匂いが立ち込める実家の前に恵子さんが駆けつけたとき、そこには呆然と立ち尽くす母の姿がありました。天ぷらを揚げている最中に長電話をしてしまい、火にかけた鍋のことをすっかり忘れていたというのです。幸い、火はコンロ周りを焦がすだけのボヤで済みましたが、一歩間違えれば大惨事になっていたことは明らかでした。

 

「母は昔から少しうっかりしているところはありましたが、ここまでとは……。この一件で、もう母を一人にしておくのは限界だと悟りました」

 

恵子さんは当時を振り返ります。しかし同居という選択肢はありませんでした。恵子さんの自宅は3LDKのマンションで、息子も来年には大学受験を控えています。母を迎え入れるための部屋の余裕はありませんでした。

 

そこで浮上したのが、老人ホームへの入居。正子さんの年金は月およそ16万円。その範囲内で、安心して暮らせる場所はないか。恵子さんは仕事の合間を縫って、いくつもの施設を調べ、見学に足を運びました。

 

そのなかで見つけたのが、少し離れた郊外にある、比較的新しい介護付き有料老人ホームでした。明るいエントランス、清潔に保たれた共有スペース、そして個室にはトイレと洗面台も完備されていました。

 

「ここなら、母も安心して暮らせるはず」

 

当初は「まだ自分ひとりで大丈夫だ」と抵抗していた正子さんも、娘にこれ以上心配はかけられないと、最後には首を縦に振りました。

 

入居して数ヵ月。週末に面会に行くと、母は他の入居者と楽しそうにレクリエーションに参加しています。

 

「やっぱり、プロに任せるのが一番」

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしの高齢者は年々増加傾向にあり、2020年には、男性が約230万人、女性が約440万人。推計値では2030年に男女合計960万人、2040年には1,000万人を超えるとされています。多くの家族が、恵子さんと同じように、親の暮らし方について悩み、様々な選択を迫られる可能性が高いのです。