私心を捨てれば、信頼はあとからついてくる
美容医療業界に身を置いてからの出来事を振り返ってみたとき、信念を貫き通したというと大袈裟かもしれませんが、私は頑として譲らなかったものが三つあります。
一つは再生医療です。この治療法を美容医療に取り入れたとき、名指しで批判されたりもしたのですが、「再生医療はいずれ美容医療の主流になる」と確信にも似た予感を抱いた私は新しい再生医療の研究に腐心しました。あれから20年近い年月が経ちますが、私が予感したとおり、再生医療は今では美容医療の主流の一つになりました。
また、再生医療に取り組んだ時期に、私は聖心美容クリニックをオープンクリニックにすると決めました。見学希望者がいれば、再生医療を用いた手術を余すところなく公開し、最新治療の普及に努めました。
二つめが、聖心美容クリニックの事業規模を必要以上に大きくしなかったことです。分院を増やすなりして規模を大きくすれば、当然ドクターやスタッフを増やすことになります。そうすると、彼らの技術指導やマネジメントをする必要も出てきます。クリニックの事業規模を大きくすることはできたでしょうが、私が懸念していたのは、規模を大きくしたがために、ここまで培ってきたクオリティが下がるかもしれないことでした。私はクリニックのクオリティを下げてまで事業を大きくしたくなかったのです。
聖心のドクターは他クリニックでは院長クラスの高いスキルを持っていますが、誰も聖心を辞めようとせず、クリニックのクオリティを支えてくれています。
三つめが、美容医療は患者様の幸せを実現するためにあることを忘れず、患者様の信頼を得られるように努めたことです。
そして、オープンクリニックのように、時には私心を捨て、美容医療業界の発展を常に念頭に置いてきました。医師として40年近い私の経験は、いずれもこの信条に裏打ちされています。
美容医療業界は、昔は今よりも胡散臭いと言われた業界でした。施術を受けようと思っている患者様は、誰にも打ち明けずにひっそりとクリニックを訪れていました。わざわざ他県のクリニックで施術を受ける患者様もいらしたほどです。
しかし、時代は変わり、美容医療は多くの方に認知され、広く受け入れられるようになりました。強引なアップセルのような悪質なビジネスで患者様を困らせ、業界の評判を落とすようなクリニックがなくなったわけではありませんが、厚生労働省もガイドラインを作成し、美容医療業界のさらなる健全化を図ろうとしています。
日本の美容医療の技術は世界からも一目置かれるほどに成長したわけですが、であればなおのこと、見上げられるにふさわしいモラルを有しなければなりません。今、美容医療に携わる私たちは、美容医療の未来を見据えるときが来ているのだと思います。
思い起こせば、私は人に恵まれていたと思います。いくつものターニングポイントがありましたが、私が誤った方向に進もうとしたときにはいさめてくださる方がおられ、的確なアドバイスをくださる方がおられました。以前ならライバルとみなしていた他院のドクターも、今では戦友のように美容医療業界の将来を語り合う仲になりました。
そして、多くの仲間たちに支えられてきました。後継者といったらおこがましいかもしれませんが、私がやってきたこと、私の意志を継いでくれる若いドクターは着実に育っているように思います。医学生たちの頼もしさもまたしかりです。
やはり、行きつくところは人なのです。一人ひとりが美容医療業界を良くしようと思えば、心を通じ合わせなければなりません。患者様との信頼を築けるのも、心の絆が深まったときです。美容医療業界はさらなる発展が見込まれますが、人と人との信頼関係が築かれなければ実現は難しいだろうと思います。しかし、私は未来に明るい可能性があると感じます。私はこの信頼を胸に、美容医療の輝ける明日へ歩いていこうと思います。
鎌倉 達郎
聖心美容クリニック
統括院長
