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「自分の市場価値は高い」…自信満々で始めた再就職活動
鈴木一郎さん(60歳・仮名)。大学卒業以来、大手メーカー一筋で邁進し、営業部長にまで上り詰めました。そして60歳の誕生日を迎え、無事定年を迎えました。数々の大規模な商談を成功に導き、多くの部下を育て上げた自負があります。直近の月収は80万円を超え、手にした退職金は約4,000万円。老後の資金としては十分すぎるほどの額です。
この先の人生の選択肢は、大きく三つありました。一つは、定年とともに仕事を辞めて隠居生活に入ること。しかし、根っからの仕事人間である鈴木さんには、仕事以外のことをするイメージがわかず、早々に却下しました。
二つ目の選択肢は、会社に残り、後輩たちのサポートを行うこと。ただこの場合、契約社員となり給与は大幅に減ってしまいます。元部長がサポート役に回ることで気を遣う後輩たちの顔も浮かび、「老害」と言われかねないと、こちらも却下しました。
残るは定年退職し、新天地で再就職することです。まだまだ社会の第一線で活躍できる年齢であり、キャリアを埋もれさせることなく活かせると考えました。体力にも気力にも自信があり、長年培ってきた営業戦略やマネジメントスキルは、どの企業でも通用するはずだと信じて疑わなかったのです。妻も「あなたなら大丈夫よ」と背中を押してくれます。
鈴木さんは意気揚々と、第二のキャリアをスタートさせるための活動、いわゆる「再就職活動」に乗り出しました。まずは大手転職エージェントに複数登録。コンサルタントとの面談では、これまでの輝かしい経歴をよどみなく語りました。誰もが知る大企業での部長職、具体的な成功実績の数々。コンサルタントは「素晴らしいご経歴ですね」と感心したように頷き、鈴木さんは自分の市場価値の高さを再確認し、満面の笑みを浮かべました。
「希望年収は、現役時代と同じとは言わないまでも、最低でも600万円は欲しい。もちろん、役職もそれなりのポジションを希望する」
強気の希望を伝え、紹介される求人案件に胸を膨らませていました。