
「まさか、うちの親が…」月7万円の年金で暮らす母の現実
「もしもし、母さん? 変わりはないか」
田中健一(たなか けんいち・50歳)にとって、実家で一人暮らす母、良子(よしこ・76歳)さんへ週に一度電話をすることは日課でした。しかし最近、受話器の向こうから聞こえてくる母の声は弱々しく、言葉も途切れがちでした。
「大丈夫。あなたも体に気をつけて」
毎回、息子を気遣う言葉で電話は終わりますが、健一さんの不安は日に日に大きくなっていきました。
メーカーで働く健一さんの年収は550万円。パート勤めの妻と高校生の娘との3人暮らしで、決して裕福ではありませんが、世間一般で見れば平均的な暮らしを営んでいます。3年前に父が亡くなってから、母の良子さんはそれまで営んでいた店をたたみ、築40年を超える実家で一人、生活していました。週に一度の電話連絡と、盆と正月に顔を出す。そんな関係が当たり前になっていました。母はいつも「心配いらない」と口にしていたため、健一さんはその言葉を疑うこともしませんでした。
しかし、不安に駆られた健一さんは、その週の土曜日、急遽ハンドルを握って実家へ向かいました。片道3時間、半年ぶりの帰省です。チャイムを鳴らしても、応答がありません。鍵はかかっていなかったため、恐る恐る玄関のドアを開けました。家の中には、どこか冷たい空気が流れていました。そして、布団に横たわっている良子さんを見つけました。
「あれ、どうした、健一……」
やはり声は弱々しく、前に会ったときよりもずいぶんと痩せている気がしました。
「昼食べた? 何か作るよ」
そう言って台所へ向かった健一さん。しかし冷蔵庫の中を確認すると、調味料があるくらいで、食べ物らしいものは見当たりません。「せめて米でも炊こうか……」と、記憶を頼りに米びつを見つけ中をのぞくと、やはり、そこにも米はありませんでした。ここで健一さんはやっと気づきます。
「母さん、ろくにご飯を食べていない……」