「親の老後」と聞いても、どこか他人事のように感じてしまう人は少なくありません。しかし、ふとしたきっかけで直面する現実は、想像以上に厳しいものです。家族のあり方や支え合いについて、改めて考えさせられる瞬間が、誰にでも訪れるかもしれません。
母さん、ごめん…半年ぶりの帰省で目撃した、〈年金月7万円〉76歳母の〈衝撃の姿〉に絶句。〈年収550万円〉50歳ひとり息子が下した「苦しすぎる決断」 (※写真はイメージです/PIXTA)

良子さんは月7万円の年金で暮らしています。亡くなった夫(健一さんの父)と、長年個人商店を切り盛りしてきました。経営はずっと厳しかったですが、堅実な良子さんは、しっかりと貯蓄を進めたり、(最低限の)保険に入ったりと、万一に備えてきました。だからこそ、健一さんを大学まで進学させることができ、亡くなった夫の治療費もしっかりと賄うことができたのです。

 

しかし、良子さんには、自分一人になったときの備えまではなかったのです。年金だけで暮らせるよう、極限まで切り詰め、ずっと我慢を続けてきました。食費を切り詰めるのは当たり前でした。夏はエアコンをつけず、冬は厚着をして暖房を我慢し、近所付き合いも、余計な出費がかさむと必要最低限に抑えていました。それもすべて、家族に心配をかけたくないという一心からでした。そんな母の思いに、健一さんはまったく気づくことができませんでした。

 

健一さんは、その日のうちに母を病院へ連れて行きました。診断は、軽い栄養失調と脱水症状。医師から「このままでは危険な状態でした」と告げられ、健一さんは自分の不甲斐なさを痛感しました。

 

家に電話をかけ事の次第を話すと、妻も絶句しました。どうすべきか――。選択肢はいくつかありました。毎月可能な範囲で仕送りをするか、介護施設を探すか。しかし、どれも現実的な解決策とは思えませんでした。健一さんの給与から住宅ローンと娘の教育費を差し引くと、毎月の生活に余裕はありません。わずかでも援助できる状況ではなかったのです。母をこのまま一人にしておくことはできない。どうすればいいのか。

 

健一さんは、公的な支援についても調べました。たとえば、市区町村の窓口では生活に困窮している人への相談を受け付けており、状況に応じて生活保護制度の利用も選択肢となりえます。厚生労働省のホームページによれば、生活保護は「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度」とされています。また、地域包括支援センターでは、高齢者の生活に関する総合的な相談が可能です。

 

しかし、母の良子さんが「人様に迷惑はかけられない」と、公的な支援に強い抵抗感を示すであろうことは、容易に想像がつきました。

 

数日間悩み抜いた末に、健一さんは一つの決断を下します。それは、母を自分たちの家に引き取り、同居するという選択でした。それは、妻や娘の生活を大きく変えることになります。妻にその決意を伝えると、黙って頷きました。

 

「大変になると思う。でも、お義母さんを放っておくことはできないから」

 

その言葉に、健一さんの涙は止まりませんでした。

 

親が元気なうちは、その生活ぶりを深く知る機会は少ないかもしれません。しかし、高齢化が進む日本において、田中さん夫婦が直面した問題は、いつ、誰の身に起きてもおかしくない現実です。大切なのは、親子が問題を一人で抱え込まず、現状を正確に把握し、利用できる制度も含めて共に解決策を探っていくこと。健一さんの決断は、その第一歩と言えるでしょう。

 

[参考資料]
厚生労働省『生活保護制度』