老後を見据えて、戸建てからマンションに移り住む人が増えています。生活空間には階段がなく、手入れするのも骨が折れる庭もない――足腰への不安が増す高齢者には、快適な住空間といえそうですが、そこには思わぬ落とし穴があることも。
〈年金月34万円〉65歳夫婦、5,000万円の駅チカマンションを購入。「これで安心だ」とはしゃいでいたが、70歳を過ぎて「こんなはずじゃなかった…」と妻が涙したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

戸建てからマンションへ…老後は安心のはずだった

田中健一さん(65歳・仮名)と妻の聡子さん(65歳・仮名)。会社の同期だという夫婦は、長年勤め上げた会社を同じタイミングで定年退職し、セカンドライフをスタートさせました。健一さんと聡子さん、合わせて4,000万円の退職金を受け取り、それまでの貯蓄と合わせると、7,000万円ほどの貯金がありました。老齢年金は夫婦二人で月におよそ34万円。子どもたちはすでに独立しており、経済的な不安はまったくないといっていい状況です。

 

「これからは夫婦二人の時間をゆっくり楽しもう」

 

そんな思いから二人が決断したのは、「終の棲家」としてのマンションの購入でした。長年住み慣れた郊外の一戸建ては、駅からの距離があり、庭の手入れや建物の維持管理が年齢を重ねるごとに負担に感じられるようになっていたのです。

 

売却した戸建ての代金と貯蓄の一部を充て、都心にも近い駅チカのマンションを5,000万円で購入。築10年の中古マンションです。新築か中古か迷いましたが、新築だと予算的に厳しく、中古であれば現実的という判断でした。中古とはいえ、設備はまだまだ最新と呼べるもので、セキュリティも万全。何より階段の上り下りから解放される生活には快適さがありました。

 

「これで安心だ」

 

高層マンションではありませんが、窓からの眺望もよく、街と緑が一体となった景色に二人は一目惚れ。聡子さんは、スーパーやクリニックがすぐ近くにある利便性の高さに、これからの生活への期待を膨らませていました。夫婦ともに健康で、平日は趣味のサークルや地域の活動に出かけ、週末は夫婦でゆったりとした時間を楽しむ――そんな理想的なシニアライフがスタートしました。

 

内閣府『令和6年高齢社会白書』によると、「住み替え意向がある」という高齢者は「将来的に検討したい」という人たちも合わせて30.4%。住み替えの意向を持つようになった理由としては、「健康・体力面で不安を感じるようになったから」が最も多く24.8%。「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」(18.9%)、「自然豊かな環境で暮らしたいと思ったから」(10.3%)、「買い物が不便になったから」(10.2%)、「交通の便が悪くなったから」(9.8%)と続きます。