充実した老後を送るための「終の棲家」として、有料老人ホームを選ぶことは有力な選択肢のひとつです。しかし、住み慣れた自宅からの環境変化が、時に心身へ予期せぬ影響をおよぼし、結果として大きな金銭的負担を強いられるケースも少なくありません。本記事ではAさんの事例とともに、高齢期の住み替えに潜むリスクと注意点について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
「年金32万円」「資産3億円」2人とも元国家公務員・代々資産家の80代お見合い夫婦、7,000万円で高級老人ホームに入居も…半年後、“高すぎる代償”を払って退居。原因は〈65年前の妻の恋人〉【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

わずか半年で高額老人ホームを退居した夫婦

環境の変化によって妻に認知症のような症状が現れてしまったことが負担となってしまったAさん。Aさん自身もホーム入居以降の妻の面倒を看るのには疲れ切っていました。入居前は物静かで落ち着いていたのに、人が変わったような有様です。精神的に不安定になり、どんなに優しく接しても夫をまともにみようともしない妻に苛立ちも感じていました。

 

また、“マサルさん”に執着する姿に、周りの入居者からも冷たい目で妻がみられるようになり、Aさんはいたたまれない気持ちに。結局、高級老人ホームは退居することを決心します。終の棲家での生活はわずか半年間足らずで終わってしまいました。

 

退居でいくら戻ってくるのか?

Aさんは、入居時に一時金として7,000万円を支払っています。施設によって返還制度は異なりますが、一時金のうち「未償却分」は返還されることになっています。

 

Aさんが入居した施設では、初期償却が20%(1,400万円)、償却期間が10年(120ヵ月)、という決まりになっていたため、初期償却のほか、次の計算による月次償却分が戻ってこないことになります。

 

・月次償却額:5,600万円÷120ヵ月=約46万7,000円
・半年(6ヵ月)で退居:約46万7,000円×6ヵ月=約280万円が償却済み

 

つまり、Aさんの返金額は、

 

7,000万円−初期償却1,400万円−償却済み280万円=約5,320万円

 

となり、経済的な余裕があったとはいえ、大きな代償だといえるでしょう。なお、短期入居や将来の住み替えを考えている場合、一時金方式ではなく、月額利用料に上乗せして払う方法もあります。

 

この方式によれば初期償却は発生せず、短期で退居する場合に大きな負担はありません。しかし、月額費用は一時金方式より高くなり、長期入居の場合は総支払額が一時金方式に比べて高くなる危険性もあります。また、将来的に月額費用が上がるリスクもあるため、よく比較して考えることが重要です。