充実した老後を送るための「終の棲家」として、有料老人ホームを選ぶことは有力な選択肢のひとつです。しかし、住み慣れた自宅からの環境変化が、時に心身へ予期せぬ影響をおよぼし、結果として大きな金銭的負担を強いられるケースも少なくありません。本記事ではAさんの事例とともに、高齢期の住み替えに潜むリスクと注意点について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
「年金32万円」「資産3億円」2人とも元国家公務員・代々資産家の80代お見合い夫婦、7,000万円で高級老人ホームに入居も…半年後、“高すぎる代償”を払って退居。原因は〈65年前の妻の恋人〉【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

お見合い結婚の元公務員夫婦

Aさん夫婦は2人合わせて約32万円の公的年金を受給しています。もともとお互いが代々資産家の生まれということもあり、夫婦の資産は不動産も合わせると約3億円となっていました。

 

2人はお見合い結婚でした。所属する省庁は違いましたが、夫婦ともに元国家公務員。2人のお互いの親による勧めで始まった縁談です。家同士の経済的格差もなく、上手くやっていけるだろうと、交際期間も短いうちにとんとん拍子で結婚が決まりました。

 

それから、Aさん夫婦は2人の子をもうけます。2人の子は、Aさん夫婦が50代のときに、それぞれに家庭を持ち、いまではお正月くらいしか家族が顔を合わせることはありません。

 

Aさん夫婦は親から引き継いだ関東地方の郊外にある、広い一戸建てに長く住んでいました。Aさんは85歳、妻は83歳と健康面の不安を覚えはじめたタイミングで、老人ホームへの入居を検討しはじめます。いくつか施設を検討するなかで「終の棲家」として選んだのは、関東地方の高級老人ホーム。入居資金は約7,000万円、食費や管理費も合わせると月額費用は約30万円かかります。

入居まもない妻の異変

しかし、入居後、段々と妻の様子が不自然になります。Aさん夫婦はこれまで戸建てにしか住んだことがなく、老人ホームのようなマンション形式の部屋で暮らすのは初めての経験です。

 

Aさんの妻は神経質なのか、隣の部屋の住人が気になり、入居者が集まって行うレクリエーションなども苦手なようでした。朝食は2人でレストランで提供される食事をとることが多いですが、部屋にキッチンが付いているため、昼食や夕食は妻が自炊しています。そのため、朝食のあとは夫婦2人きりで部屋に閉じこもってテレビを眺めている日も少なくありません。