ある日突然、親に介護が必要になったら――誰もが「自分にはまだ先の話」と思いがちですが、現実はそう甘くありません。また親の介護に対する家族の想いは必ずしも一致するとは限らず、ときにはトラブルに発展することも。
お前なんか、人間じゃない!〈年金月16万円〉父の介護で倒れた52歳次男。退院後、父のいない実家で知った「長男の非情な決断」に愕然 (※写真はイメージです/PIXTA)

介護と仕事の両立の果てに訪れた、突然の倒壊

鈴木良雄さん(仮名・52歳)。都内の中小企業で営業部長として働く一方、この2年間は仕事と介護の二重生活を送っていました。

 

父・鈴木勝さん(仮名・82歳)は、8年前に母(=妻)が亡くなり、実家で一人暮らしをしていましたが、2年前に自宅で転倒。その影響により要介護2の認定を受けると、良雄さんは実家に戻り、父の介護を続けてきました。

 

勝さんの年金は月16万円ほど。平日は毎朝、父の朝食と薬の準備を済ませ、介護ヘルパーとバトンタッチ。慌ただしく出勤し、日中は常に仕事のことでいっぱいに。しかし、スマートフォンのバイブが震えるたびに、心臓がどきりとします。父の身に何かあったのではないか、ケアマネージャーからの緊急の連絡ではないかという不安が頭をよぎります。

 

夜、疲れ果てて帰宅しても、息つく暇はありません。介護ヘルパーとバトンタッチすると、夕食の支度、父の就寝の介助、そして翌日の準備。自分のための時間はほとんどありません。また土日はすべての介護を良雄さんが担います。

 

離れて暮らす兄・鈴木浩一さん(すずき こうじ、55歳・仮名)さんからは、時折「変わりないか?」と電話があるだけ。「何かあったら言えよ」とは言うものの、具体的な支援の申し出があるわけではありません。「兄さんには家庭があるから」と良雄さんは自分に言い聞かせ、一人ですべてを抱え込んでいました。

 

介護と仕事の両立は、多くの人にとって他人事ではありません。厚生労働省『雇用動向調査』によると、2023年、介護や看護のために仕事を辞める人は7.3万人。昨今は介護休業などの制度が整いつつあるものの、毎年、7万~9万程度で推移しています。良雄さんのように、責任ある立場にありながら介護を担う「ビジネスケアラー」の苦悩は、深刻な社会問題となっています。

 

そのようななか、心身の疲労はピークに達します。ある日、重要なプレゼンテーションの最中、良雄さんはその場に崩れ落ちてしまいます。過労による急性心不全でした。