「健康寿命」は2022年の推計で女性が75.45歳、男性が72.57歳。いわゆる老後といわれる期間がどんどん長くなっていくなか、定年後は穏やかにゆっくりと過ごすか、それともいつまでも現役時代のようにアグレッシブに生きるか、全サラリーマンの課題かもしれません。
惨めだ…〈年収1,200万円〉だった62歳元部長、再雇用で給与7割減。28歳年下の元部下に言われた「残酷なひと言」でプライドが崩壊 (※写真はイメージです/PIXTA)

「昔の武勇伝はもういいんで」…28歳下の上司の非情な言葉

正社員から契約社員、業務は単純作業、給与は7割減――そのような条件を受け入れたのも、無収入期間に対する恐れからでした。年金の受け取りは原則65歳から。もし60歳で引退したら、5年間は「収入なし」となります。

十分な貯蓄に、十分な退職金。決して、余裕がないわけではありません。しかし、60歳を天井にお金が減っていく――この現実は、これまで資産は増える一方だった高橋さんにとって恐怖に近い感覚がありました。

「5年でいい。5年耐えれば、年金がもらえるようになる」

プライドが崩壊するなかでも働いているのは、そんな思いからでした。しかし、それはある月曜日の定例ミーティングでのことでした。新しい営業戦略について、若手社員たちが意見を交わしています。そこでふと、意見を求められた高橋さん。

「私の経験から言うと……」

彼は、自分が部長時代に成功させたプロジェクトの話を意気揚々と始めました。あの時、いかにして競合に打ち勝ち、大きな利益を会社にもたらしたか。若手にも自分の経験を伝えたい、この会社に貢献したいという一心でした。しかし、高橋さんの熱弁が10分ほど続いたとき、上司の鈴木課長(34歳・仮名)がはっきりとした口調で高橋さんの言葉を遮ります。

「高橋さん、すみません。武勇伝はその辺にしてもらって。先週お願いしたデータの分析を早く仕上げていただきたいんですが」

フロアにいる全員の視線が高橋さんに注がれているように感じました。若手社員たちは気まずそうに目を伏せます。良かれと思ってした発言が、ただの「老害の昔話」として切り捨てられたのです。高橋さんのプライドは完全に崩壊しました。「あ、あぁ、わかった……」とだけ絞り出し黙り込む高橋さん。「あと3年でいい。あと3年、耐えればいい」そう心のなかで念じたといいます。

定年後も働ける環境は整いつつありますが、一方で、シニア社員のモチベーション低下が問題になっています。しかし、もし彼らが再び働きがいを感じられる組織にできたなら――その知見と経験は、会社にとって何よりの財産になるはずです。

[参考資料]

厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』