
年収1,200万円の「元部長」が受け入れた屈辱的な再雇用条件
高橋健一さん(62歳・仮名)の朝は、ため息から始まります。大手メーカーの営業部長として、かつては年収1,200万円を稼いでいました。それが今では、同じ会社の再雇用制度を利用して働く契約社員。給与は7割も減り、年収は約360万円です。
「定年を迎えたのだから、仕方がないさ」
妻にはそう言って見せるものの、心の中は穏やかではありません。細かな値段など気にせずに、食事や趣味のゴルフを楽しんでいたのは昔の話。今は買い物などしたら必ずレシートをもらい、日々の生活費を計算。老後資金の目減りを気にする毎日に、言いようのない焦りを感じていました。
現役時代、自身が指導した部下たちは今や管理職となり、直接ではないにしろ上司として高橋さんが所属する部のトップに君臨しています。仕事で関わることはないので、話すことはほとんどありません。しかしたまに社内で顔を合わせると部下だったころのように、向こうから話しかけてきてくれます。気を遣われている――それがかえって高橋さんを惨めな気持ちにさせるのでした。かつて自分が決裁していたような大きなプロジェクトの話を遠くで聞きながら、自分は単純なデータ入力や資料の整理を黙々とこなす。そのコントラストに、プライドが徐々に崩壊していくように感じていました。
「まだまだ社会と繋がっていたい」「この経験を活かせるはずだ」。そんな思いから再雇用を選びましたが、会社が高橋さんに用意した椅子は、部長時代のそれとは似ても似つかないものでした。役職はなくなり、責任ある仕事も任されない。ただ、会社の制度として雇用されているだけの存在。それが現実でした。
それは給与においてもそう。厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』によると、50代後半の正社員(大卒・男性)の給与は平均月56.1万円。一方、60代前半、非正規社員になると、平均月34.9万円。60歳定年を境に雇用形態が変わることで、月収は4割減。さらに高橋さんのように、役職ありから一気に非正規社員になると、給与7割減というのも珍しいことではないのです。