
突然の夫の死、突きつけられた「遺族年金」という厳しい現実
鈴木明子さん(45歳・仮名)。突然の知らせは、パート先で聞いたといいます。夫の健太さん(享年48・仮名)が勤務先で倒れ、そのまま帰らぬ人となったのです。心筋梗塞でした。その日の朝、「行ってきます」「いってらっしゃい」が最後の会話になるとは、思ってもみませんでした。
現実を受け止めきれないまま、葬儀や諸々の手続きに追われる日々が過ぎていきますが、悲しみに暮れる暇さえなく、明子さんが向き合わなければならなかったのが、これからの生活のことです。
一家の大黒柱を失ったなか、高校2年生の娘、美咲さん(17歳・仮名)とともに生きていかないといけません。そんな遺族に対する公的な保障が遺族年金です。
健太さんは真面目な会社員で、人並みの給料をもらっていたはず。だから、きっと生活の心配はないだろう。そう信じて年金事務所の窓口へ向かった明子さんは、提示された金額に言葉を失いました。
「月額、およそ14万円になります」
耳を疑いました。月14万円。家賃を払ったら、ほとんど残らない金額です。
遺族年金には、国民年金に紐づく「遺族基礎年金」と、厚生年金に紐づく「遺族厚生年金」の2種類があります。明子さんの場合、子どもがいるため遺族基礎年金が支給されます。その額は、年間約79万円に子の加算額(第一子・第二子)が約23万円。月額にすると約8万5,000円です。そして、健太さんが厚生年金に加入していたため、遺族厚生年金も支給されます。これは、健太さんの生前の給与(標準報酬月額)や加入期間によって決まりますが、計算の結果、明子さんの場合は月額約6万円でした。合計で、月14.5万円。これが、一家を支えてきた大黒柱を失った家族に国から支払われる金額の現実でした。
明子さんには計算式の理屈よりも、「この金額でどうやって娘と生きていけばいいのか」という絶望だけが重くのしかかりました。これまでのパート収入と合わせると月収は20万円程度。シフトを増やしてもらうにしても限界があります。
「ちゃんと保険に入るなど、備えておくべきでした。まだ若いから大丈夫と考えていたのが十年くらい前。それ以来、何もしてこなかったんです」