こんなはずじゃなかった、と思ったら
多くの人は、サイコロを振って1が2回、3回と続いても「まぁ、そんなこともあるよね」と受け流せます。けれど理性的な人であっても、資産価格が20%、30%と下落したときに「まぁそんなこともある」と思えるか? それはまた別の話です。
「こんなはずじゃなかった」
「なにか間違っていたんじゃないか」
そう感じるのは、ごく自然な反応です。そんなときは、ぜひこのサイコロゲームの比喩を思い出してください。資産運用というものには、元々これくらいの不確実性が付きものだということです。その前提さえしっかり押さえていれば、周囲の不安を煽る声に振り回されたり、不必要に絶望したりすることも減るのではないでしょうか。
形を変えたスピリチュアル
近年、特にコロナ禍以降は市場が好調だったこともあり、投資を過度に美化する記事や、リスクを軽視する発信も増えています。
なかには、自身の短い成功体験だけを根拠に語る“自称専門家”もちらほら。ポジティブ一辺倒な情報に囲まれていると、ちょっとした下落でも不安が倍増してしまうのは無理もありません。
「暴落する」と言い続けるオオカミ少年的な存在も困りものですが、相場が荒れたときに、突然“特別な投資行動”を推奨する人にも注意が必要です。
たとえば、暴落時に「今こそ倍プッシュだ!」のように煽るような発言──これは、もし市場が効率的(EMH:効率的市場仮説)であるならば、かならずしも合理的とはいえません。
効率的市場仮説に従えば(あなたがインデックス投資を最高のものと信奉するなら)、直前の値動きと将来の値動きには何の関係もないとされています。つまり、相場が暴落した直後であっても、次に上がるか下がるかは“限りなくサイコロに近い”のです。
サイコロで1が3回連続で出たからといって、次に1が出る確率は変わりません。確率は1/6です。市場においても、「下がったから次は上がるだろう」と思いたくなる気持ちは自然ですが、そこに確証はないのです。
暴落が来ても、いつも通り、淡々と投資を続けていくことが健全です。無理に勝負をかけたり、「今こそチャンス!」と感情に流されて行動するのは、実はまったく根拠のないリスクを高める選択ということになりかねません(株価チャートを対数グラフで見れば、そもそもタイミングを取らなくても良いと感じていただけるかもしれません)。
似たような話でときどき耳目にするのが「暴落したら投資を始めよう」というセリフです。
しかし、これも考え方としては「誰かが1を出した後にサイコロを振ろう」と言っているようなもの。確率的には、暴落のあとにもう一段下がる可能性だって普通にあります。
「今はやめておこう」「もう少し様子を見てから」と言っているうちに、資産価値は変動しながら上昇してしまう、投資ではよくある話です。
ちなみに、ときどきこんな質問を受けることがあります。
「市場が効率的なら、そもそもリターンなんて得られないのでは?」
これは一見もっともらしく聞こえるのですが、実はちょっとした誤解です。
市場が効率的であるというのは、サイコロの例でいえば「次にどんな出目が出るかを正確に予測することはできない」ということを意味します。
でも、それはあくまで“予測ができない”という話であって、“そもそも増えない”ということではありません。要するに、「長期平均でリターンがプラスなのかどうか」と「市場が効率的かどうか」は、まったく別の次元の話です。