(※写真はイメージです/PIXTA)
経営者のあるべき姿とは
今回のような事例を少し客観的に見てみましょう。
まず前提として、会社貸与のメールアドレスやスマートフォンは会社の資産ですから、企業がそれらをチェックすること自体は違法ではありません。実際に、「業務メールを会社が監視するのは合法」とした判例も多数あります。
ただし、すべての私信を社長が確認しているというのは、さすがにやりすぎの印象は否めません。しかし、社長がスカウトの存在を知るきっかけの多くは、実は社員自身が「こういう連絡がありました」と報告するケースです。
私であれば、こうしたスカウトをわざわざ報告することはしません。けれど、報告されたということは、非常にロイヤリティの高い社員なのだと思います。そのような社員がいるというのは、企業にとって誇るべきことでしょう。こちらがお誘いをしても、そういった社員は、当面は外に動く心配はないと思われます。
お怒りの連絡をいただいても、「このたびはお騒がせしました。御社のますますのご繁栄をお祈りしております」と穏やかにお話しすれば、炎上に発展することもありません。
ただし、社長による手紙やメールのチェックが常態化し、それが従業員に知られてしまえば、社内の空気は確実に悪くなります。遅かれ早かれ、従業員は“ドン引き”してしまうでしょう。
ですから、社長には冷静な対応をお願いしたいのです。スカウトの存在を問題視するよりも、「どうすれば自社で気持ちよく働いてもらえるか」を真剣に考えることが重要です。職場環境や待遇の見直しは、人材採用と同等、もしくはそれ以上に重要な経営課題なのです。
スカウトは営業妨害?
最後に余談ですが、過去には「スカウト行為は営業妨害に該当するのでは?」というクレームもありました。このテーマでは、法改正も繰り返されてきましたが、私どもは50年以上にわたり時代の流れを見ながら対応してきました。
現在の一般的な解釈としては、「管理職の15〜20%を超える人数に、ほぼ同時にスカウトを仕掛けた場合」、その行為は斡旋の範囲を超え、営業妨害と認定される可能性があります。
ただし、第三者であるエージェントが、特定の企業に対して飽和的にスカウトを行ったとしても、大きな問題にはならないケースがほとんどです。一方、依頼企業が特定のターゲット企業を明示し、その管理職に集中してアプローチを行った場合、一定の割合を超えると問題視される可能性が出てきます。
私どもとしては、この「10数%」というラインをひとつの目安として捉え、慎重に対応しています。時代がどう変わろうとも、“職業選択の自由”が守られるべき権利であることは、言うまでもありません。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長